ドイツ人経営コンサルタントによるビジネスのエッセンスをサッカーから学ぶための一冊。

モチベーション、組織開発、報酬、目標管理、リーダーシップなどはビジネスの世界で常に話題となっているキーワードである。しかしよく考えてみればサッカーにおいてそれらははるか昔から論じられてきた内容であり、ビジネスと違い結果が万人に見えているので進化も早い。サッカーの世界でマネジメントがどのように行われてきたかを名監督の発言をもとに学ぶことで、現代ビジネスの手本としようというのが本書の趣旨である。

43の行動哲学が独立した形で構成されているので、興味のあるところだけ読んでも構わない。

例えばマネージャーに関する章では次のように書かれている。

サッカー界からビジネスに転用できる、とても大事な考え方がある。かつてイタリア代表監督を務めたジョバンニ・トラパットーニの言葉だ。
「優れた監督でも、チームの力を10%引き上げられればいいところだ。しかし、無能な監督だとチームの力を50%も下げてしまう。」(P.25から引用)

ビジネスパーソンが聞いてもグサッとくる内容ではないだろうか。

また、目標設定の考え方については次のように書かれている。

どうすれば選手たちを「ハングリー」なままにしておけるのか。成功した後も緊張感を保つにはどうしたらいいのか。
新しい目標か ― それは問題の先送りにすぎない。
もっと高い目標か ― 到底届かない目標設定では誰も喜ばない。
そんなことが大切なのではない。もし成功するだけでなく、成功し続けたいのであれば、大切なのは「プレーする喜び」を取り戻すことだ。自分のプレーがチームにいい影響を与えたことや、ベストを尽くすことでチームにも自分にもベストな結果が得られたことを思い起こすことが大切なのである。
あなたには、「仕事をする喜び」がまだ残っているだろうか。(P.39-40から引用)

他の章でも言及されているが、報酬が目的では選手を留め続けることは難しく、喜びを分かち合うことが何より大切である。報酬は「交換」なので求めれば際限がないが、喜びを分かち合うことは「統合」なので今あるリソースで十分事足りるからだ。

また、時折登場するヨーロッパサッカーの何気ないデータが参考になる。
例えばチーム内の収入格差とモチベーションに関する研究(P.184)や、報奨金の多さとシュート数は比例しないこと(P.171)、プレミアリーグとブンデスリーガのボールを持つ時間の平均の比較(P.58)などが紹介されている。出所が示されていればなお良いのだが、残念ながら研究した大学名は示されているが出所は示されていない。

中でも最も興味を引いたのは、監督交代の効果についての言及である。ヨーロッパでは監督交代は大きな効果をあげることはない、と結論づけている(本書の中では、その教訓を活かしてCEO交代の際の後継者選びはしっかりすべき、と続く)。

これまで読んだ文献などで監督交代の効果についてデータをもとに紹介しているのは本書とチェルシーの監督交代についてのレポート(英語:What is the Impact of Changing Football Manager 2012)くらいしか発見できず、貴重な資料となっている。
(ちなみにこのチェルシーに関するレポートでも監督交代は投資金額ほどの効果はないと結論づけている。)

これまでの人生でサッカーから多くのことを学んだと感じている人は、本書を通じて共感できる部分や新たな発見が数多くあるはずである。



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