ジュビロ黄金期を支えた鈴木政一監督の指導哲学。

中山、高原、藤田、名波、奥、服部。今聞いてもそうそうたるメンバーである。名波を中心としたNボックスによるジュビロ黄金期。なんとジュビロ磐田を率いての通算成績は59勝6分8敗という驚異の勝率8割を記録した、その監督こそ鈴木政一氏である。

しかしここまでの好成績を残したのにも関わらず、例えば西野監督や関塚監督に比べれば知名度、注目度ともに低く、そのサッカー観はあまり知られていない。そこで本書である。よくぞ鈴木政一監督に注目してくれたと、それだけでサッカー狂にはたまらない。

まずストーリー、そして哲学

現在U18日本代表監督を務めている鈴木政一監督であるが、U18の監督であることすら知らない人が多いことと思う。その前は2年間母校日体大の監督を務めていた。選手としては主にヤマハ発動機(現ジュビロ磐田)で活躍。そういった経歴は僕も知らなかったし、本書がそういったストーリーの紹介にページを割いてくれたのはすごく良かった。人物像を理解した上で、後半は指導や育成についての理念や哲学が紹介されていく。

観る、すなわち判断力をいかに養うか

本書で一貫して訴えかけているのは、「観る」「判断する」という能力をいかに養っていくか、ということである。むしろ、それしか語っていないといっても差し支えない。

まずは幼少期から2歳刻みでどのようなコンセプトで指導していくべきかが提示される。
例えばチャイルド(5〜6歳)であれば「観ることをベースに楽しさとボールに慣れること、観察力、身体を使うこと、コーディネーション能力を育てる」といった具合である。

その上で、日本ではとにかく「観る」「判断」の指導が足りていないことを指摘している。

日本の一貫指導に足りないものは、"観る"ことを教えていないことである。判断の指導が欠けている。判断することを子どもたちは教えられていない。素晴らしい技術や体力、スピードを持っていても観方を間違って判断が悪ければミスになってしまう。(P.112から引用)

その現状として、このようなシーンを例に挙げている。

ベンチからは大声で、「サイドチェンジ!」と指示がとぶ。すると、子どもは言われた通りに蹴る。それが、たまたまつながり、ゴールに結びついた。
「ナイス、ゴール!」。子どもは、サイドのスペースを観ることもなく、相手との駆け引きもないままに、ベンチからの声を忠実に守る。そこに子どもの判断など入り込む余地はない。
この子が上の年代のクラスにいったときに、観ることも、判断することもできないような指導をしてはいけない。ではどうすればよいか。アンダー9の段階では、自分の観える範囲で、自分で判断して、一番よいと思うプレーができれば充分である。(P.126-127から引用)

そしてそのための指導方法として、トータルサッカー、グループ戦術、数的優位などの観点を提示してくれている。具体的指導方法や練習メニューまでは書いてくれていないので抽象的ではあるのが残念だが、鈴木政一氏の考え方には十分に触れることができる。

本書で重要視していた「判断の重要性」というものは最近はいろんなところで語られ始め、耳に入ってくるようにはなってきている。ただし、そのトレーニングの方法に関してはなかなかお目にかかれないというのが現状である。それは本書も同じで、それを書いたら商売上がったりということなのかもしれない。

その中でも、サッカーサービス社のU13世代の選手向けDVD教材の知のサッカーはトレーニングメニューも多数紹介されていて良いと思う。DVD2枚組とはいえ21000円もするから高いけれど。まあしかし、トレーニングメニューを買うというのはそういうレベル感であってよいと思う。僕は1巻しか見ていないが、2巻も出たようである。ちなみに出演しているバルサのコーチ陣はひたすらに頭を使え、判断を身に付けろ、と主張している。1.状況把握、2.判断、3.実行、の順番だ、と。

どこまで教え、どこまで気づかせるのか、という話になってくる

先に引用した例では、要は指示を具体的に出すと子どもが判断できなくなるからそれは弊害ですよ、と言っている。ただしここで見誤ってはまずいのは、どこまでを創発的なアプローチで伸ばし、どこまでを指示で伸ばすかという線引である。一様に指示がダメだとは僕は思わず、判断を促すような指示、例えばフェアウェイとOBゾーンを大まかに分けて「こういうようなプレーはOK」「こういうようなプレーは場合によってはまずい」というパターン分けをして指示するのは、これは比較的OKな部類であると思う。

また、中にはヒントを与えることでグッと伸びるタイプもいる。守破離の概念に似てくるが、まずは習うことでベースを掴み、その上で応用という順番である。最初から何もかも創発的なポジティブアプローチに任せれば良いということではない。

この辺りのことを単純に「バランス」と言ってしまっては、それは概念としては理解できるけど具体的なヒントにはなり得ないので僕はバランスという言葉はあまり好きではない。やはり、具体的なトレーニングメニューと、どのようなケースで何を指示し、どのようなケースでは放任するのか、という抱き合わせで理解しなければいけないと思う。そう考えると、やはり知のサッカーのようなDVD素材が良いということになってくるのかしら。

ある程度、指導や育成に理解のある人向け

本書は鈴木政一氏という稀有な存在に目をつけて出版してくれただけですおく価値があるのだが、正直構成は分かりやすいものではない。また、なぜか横書き。叢文社(そうぶんしゃ)という出版社で、初めて聞いたところだから仕方ないのかな。読者自身が体系的な視点をもって読まないと、内容が重複しているというか整理されていないと感じられる箇所が多数あり、混乱してしまう。指導や育成の考え方をすでに持っている人が、考えを比較したり方向性の正しさを担保したり、そういう使い方に向いているといえる。



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