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欧州サッカーの勢力図を根本から塗り替える可能性を秘めたファイナンシャル・フェアプレー(FFP)。すでに審査対象期間が始まって2シーズン目ということもあり、最近はメディアのニュースでもファイナンシャル・フェアプレーという言葉を目にすることが多くなってきた。そこでファイナンシャル・フェアプレーを理解するための4つのポイントについて整理しておく。

1.基準を満たさないクラブはUEFA CLやELへの出場資格が剥奪される

クラブの収支を少なくともイーブンにしなくては、そのクラブにはUEFAクラブライセンスが発行されない。つまり、UEFA主催のCLやELへ出場することができない。

2.審査期間は過去3シーズンの合計収支で、当初は段階的に適用される

審査は、過去3シーズンの合計収支で判断される。ただし、初回の審査である2013-14シーズンだけは過去2シーズンの合計収支となる(審査対象シーズンは2011-12および2012-13、つまり審査はすでに始まっている!)。
また、段階的な適用として2014-15シーズンの審査(審査対象は2011-12、12-13、13-14の3シーズン)までは累積赤字を4500万ユーロまでは認め、2017-18シーズンの審査までは累積赤字を3000万ユーロまでは認める。

3.オーナーによるポケットマネーは認められない

オーナーによるポケットマネーは収入として認められないため、移籍選手の獲得などのために使用することができなくなる。また、借入金による赤字の穴埋めは一切認められず、寄付や増資による穴埋めも17-18シーズンの審査まで。それ以降は純粋な収入が支出を上回らなければならない。

4.育成と施設への投資は支出としてカウントされない

長期的な投資である育成や施設(スタジアムなど)への支出はファイナンシャル・フェアプレーとしての支出にはカウントされず別会計となる。


ビッグクラブの中でも、バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティ、チェルシー、リヴァプール、ミラン、インテル、パリ・サンジェルマンなどは基準を満たしていないと見られている。優良なのはレアル・マドリー、アーセナル、バイエルンを始めとするドイツの各クラブである。

クラブの主な収入源は入場料収入、放映権収入、グッズ・スポンサー収入の三本柱。一方で支出は補強費と人件費の割合が高い。これらのことから、ファイナンシャル・フェアプレーの適用に伴い以下のような事象が発生していくものと思われる。


A 移籍マーケットの縮小

短期的な強化のために多額の資金を投じてビッグネームを獲得するような移籍は数限りあるものになっていく。日本円にして何十億円もの資金を移籍に使うことは徐々に少なくなっていくだろう。
一方で、CL出場のボーダーラインにいるクラブ(各リーグの3位や4位のクラブ)の中には、「移籍したいが移籍金がネックで移籍できていないビッグネーム」を獲得する動きが出てくる可能性が高い。UEFA CLの放映権収入はバカにできない金額であり、CL出場のための投資としてビッグネームを獲得するクラブがあってもおかしくない。

B オフの期間の海外遠征の増加

現在でもバルセロナやマンチェスター・ユナイテッドなどのビッグクラブは7月や8月のオフの期間にアジアツアーを実施しているが、これがさらに増えていく傾向になる。アジアやアメリカへのツアーはヨーロッパ以外の大陸におけるファンを増やし、グッズ収入を大きく増加させる可能性を秘めている。

C コマーシャル要員としての選手確保の復活

一時期日本人選手の獲得もビジネスの要因が大きいと言われていたが、本田圭佑や香川真司、長友佑都の活躍により実力も伴った移籍と見られるようになってきた。しかし、資金が黒字かどうかが大きな意味を持つようになればコマーシャル目的での移籍も若干であるが復活する可能性がある。

D 育成への投資と海外クラブスクールの増加

育成への投資は別会計であるので、バルセロナのように育成を通じた選手の確保や選手の売却資金は有効な手立てであり、さらにこの流れが加速していく。また、日本でもバルセロナやチェルシー、ミランなどが子供向けのサッカースクールを展開しているが、このような動きもコマーシャルとクラブのブランド強化のために広がっていくと予想される。

E 若年選手の確保の加熱レース化

20歳以下程度の選手の獲得競争が過熱化する。特に資金に乏しく、戦力補強を考えているクラブは若手に目を向ける傾向が今以上に強くなるだろう。また、18歳未満の選手であっても家族ごと近くに引っ越せば引きぬくことができるので、久保建英くんのように10歳程度で海外クラブへの移籍が増えていくことも考えられる。

F オーナーによるポケットマネー使用の裏ワザの蔓延

17-18シーズンまでは寄付による赤字の穴埋めが認められているので、何らかの手段を用いてポケットマネーをロンダリングして穴埋めに使用するクラブが出てくることは考えられる。むしろ、17-18シーズン審査以降でも弁護士や金融機関や闇取引を通じて会計上明瞭にした形で穴埋めをしようとするクラブが出てくるだろう。
そういった抜け道を模索することよりも深刻になる可能性があるのは、クラブが徒党を組んで「だったら我々はCLに出ない。そうなると困るのはUEFAの方だろう。」と脅しをかけてくることだ。すでにG14(14のビッグクラブによる非公式の連盟)は解散し、対FIFA、UEFAの訴訟はすべて取下げられ、クラブと協会は協調の時代に入っているが、それでも審査に落ちるクラブが出そうになると予断を許さない状況になることも考えられる。

G 実際にUEFAのコンペティションから締め出されるクラブの登場

審査が始まればUEFA会長のプラティニは例外は許さないと思われる。一度例外を作ればルールを作った意味がなくなる。かつてマジョルカが経営破綻から財務が悪化しELへの出場資格を剥奪されたことがあった。同様のことが他のクラブにも発生する可能性は高い。
一時的に混乱が発生することも考えられるが、長期的に見れば過度なビジネス要素をフットボール界から排除するという目的は達成されるだろう。


ファイナンシャル・フェアプレーが導入された背景には、CLの度重なるフォーマット変更やクラブ対協会の対立構図などの長い歴史がある。『チャンピオンズリーグの20年 ---サッカー最高峰の舞台はいかに進化してきたか』(筆者のレビュー)を読めばそのあたりの歴史については一通り学ぶことができる。



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