攻撃の3大テーマをもとに104のトレーニングメニューを図解入りで紹介。

サッカーのプレーが「認知」「判断」「実行」という連続性を持った3つの局面で構成されていることは共通の認識として差し支えないだろう。そしてプレーを支える「フィジカル」「メンタル」を加えた5つがトレーニング領域として存在する。

クラブやチームとしてサッカーをする場合には、「判断」の部分にチームフィロソフィやプレーモデルを導入することが重要視されている。簡単に言えばチームの決まり事のようなものであり、戦術と言い換えることもできる。フィロソフィやプレーモデルがなければ判断の基準がないので、チームの良さを最大限発揮することは難しい。

一方で、それを理解した上でもっと大局的にサッカーを捉えた場合、攻撃シーンはフィロソフィやプレーモデルに関係なく自ずと2つに大別される。カウンター攻撃を仕掛けるか、ポジション攻撃を仕掛けるか、である。

そこで、大別した2つの攻撃手法であるカウンター攻撃、ポジション攻撃に加え、フィニッシュとして大切なシュートを3大テーマとして、それぞれのトレーニングメニューを図解入りで紹介しているのが本書である。どのようなプレーモデルを選択したとしてもカウンター攻撃かポジション攻撃を仕掛けることになるので、本書のトレーニングメニューによってサッカーをするのに一般的に必要な動きを体得できる。

フィロソフィに縛り付けない指導の重要性

本書の日本版監修者であるゲルト・エンゲルス氏は「私見ですが」と断った上で、育成年代ではフィロソフィに縛り付けない指導を心がけることが重要であると説いている。

16歳までは選手を指導者のフィロソフィー(哲学)にしばりつけるのは避けるべきで、まずは選手が多くのオプションを持てるように指導し、そしてそのオプションを試合中にフレキシブルに応用できるように育てるべきです。選手が学んだオプションを試合で有効に使うためには、一瞬の状況判断のスピードをあげられるような実戦的なトレーニングが必要です。選手たちが状況に応じてフレキシブルに対応し、選手自らが応用できるようになることが重要なのです。(P.7から引用)

このように考えるのは、ユース年代の「ポゼッション志向」にある種の危険を感じているからとエンゲルス氏はいう。

日本のとくにユース年代のサッカーを見ていると、プレーレベルが高いチームほどポゼッションを重視する傾向が見て取れます。しかしボールキープのスキルだけを磨いていると、自身よりもハイレベルな相手と対峙してボールキープできなかったとき、困難に直面してしまうのです。その際、ユース年代からカウンター攻撃などの戦術を身に付けておけば柔軟に対応できます。またカウンターに限らず、手数をかけずにゴールへ向かう思想が根底にあれば、物事をシンプルに考えることもできるのです。(P.6-7から引用)

これはまさに日本代表が直面している問題でもある。アジアでは圧倒的なポゼッションでゲームを支配できるが、世界では必ずしも日本がゲームを支配できるわけではない。そうした場合にどのように対処していくのかは未だに日本として意識が定まっていないと感じられる大きな岐路である。2006ドイツW杯では対アジアと同じ戦い方を指向して1次リーグ敗退、2010南アW杯では直前に守備的な戦い方を指向してベスト16。2014ブラジルW杯はこのままいけば対アジアと同じ戦い方を指向していくだろうが、結果は果たして、である。

ちなみに本書では「ポジション攻撃」と「ポゼッション攻撃」は明確に定義を分けて使われている。

ポジション攻撃とは、チーム全体としてのポジションは守りつつ、局所ではポジションチェンジを繰り返しながら相手のポジションに穴を作り出し、そこを突いていくことを意味している。

一方でポゼッション攻撃とは、一般的にボールキープに主眼を置いた手法で、どちらかというとフィロソフィに関連したものである。

『バルセロナの哲学はフットボールの真理である』(筆者のレビュー)でもポジションという言葉を意図して使用している。監修者の村松尚登氏はまえがきでこのように語っている。

タイトルを直訳すると「FCバルセロナのポジションプレー」となります。「posicion」は日本語でいうところの「ポジション」を意味しますが、「El juego de posicion」は本書内でも頻出する言葉で、バルセロナのサッカーの根幹でもあります。相当する日本語は、今の日本サッカーには存在しないですし、「ポジションプレー」とそのまま訳してはオスカル氏が意図するニュアンスは伝わらないでしょう。
(中略)
これで、「El juego de posición」が、ボールをキープ(ポゼッション)するためにパスコースを複数作り続ける際に、一人ひとりのポジション取りがある程度決まっており、その中でお互いのプレーゾーンを尊重し合いながら動く、というニュアンスが伝わってくるかと思います。(P.9-10から引用)

トレーニングメニューの構成

カウンター攻撃もポジション攻撃も、まずは簡単なものから実施して徐々に難しくなっていくように構成されている。

カウンター攻撃では、まずは1対0(相手はGKのみ)から始まり、徐々に2対1+1(守備者が1人後ろから追いかけてくるのでもたもたしているとカウンターが成り立たない)、2+1対1+1といったようにゲームに近づく構成にし、最後の方は6対6といった流れの中からのカウンター攻撃を意識させるようにできている。守備で数的有意を作り出して相手からボール奪取し、即座に逆サイドに展開して仕掛ける攻撃などもあり、実際のゲームでも十分通用する内容である。

ポジション攻撃では、まずはポジションを守る(ポジションチェンジしても良いが誰かは必ず適正なポジションにつく)ことを意識させるメニューが多い。各自が移動できるゾーンが決まっていたり、深く広いポジションを取ることが求められたりする。その上で相手のポジションに穴を作り出すことが意識できる内容となっている。

ただし、すべて動きが決まっているトレーニングというよりはプレイヤーの「判断」を重要視するメニューになっており、型にはめるというものではない。型ではなく、自主性を育むために必要なヒントが各メニューに用意されているので、それを参考にすることができる。

判断ができるプレイヤーに成長するために

エンゲルス氏はテクニック(実行)の使い方についてこのように語っている。

日本とドイツの両国でサッカーの指導経験がある私の主観としては、日本とドイツはサッカーの指導方法が似ていると感じます。しかし現状では「テクニックの使い方」は日本よりもドイツの選手のほうが優れているように思います。この場面では素早くトラップして次の動作に移行するとか、この場面ではボールをキープするのではなく潔くクリアすべきであるという選択、またはゴール前で躊躇なくシュートを放つなどの判断力です。(P.8から引用)

本書が刊行されたのは2009年だが、2014年になってもまだ同じことが言われ続けている。タイトルがまさにこの事実を表現している『テクニックはあるが「サッカー」が下手な日本人』(筆者のレビュー)にはこのような記述がある。

「サッカーの基本とは?」ということを考えた場合、サッカーの基本は決してテクニックではなく"駆け引き"や"賢さ"だという価値観がスペインには存在します。小学校低学年の試合でも、選手もコーチも保護者も全員が選手たちに"駆け引き"や"賢さ"を要求します。ここでいう"賢さ"とは、刻一刻と変化する試合の中で的確にかつ迅速に状況判断を下し続ける"知的能力"のことを指しています。(P.74から引用)

選手が変わるにはまずは指導者から。実行(テクニック)部分ももちろんだが、認知や判断の部分のトレーニングが早期から提供されるような土壌になっていくように、本書のような書籍が少しでも広まってくれたらと思う。



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