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タグ「プレーモデル」の一覧

4月14日に大井町にて「バルサ流育成メソッドを学ぶ!」と題した村松尚登氏のセミナー(主催:ジュニアサッカーを応援しよう)が開催されたので最前席に陣取って聞いてきました。簡単に内容を紹介し、最後に考察を加えたいと思います。

内容は書籍の紹介も含めた3部構成

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セミナー開催まではスクリーンには村松さんが監修した『バルセロナの哲学はフットボールの真理である』が大きく投影されていました。そしてセミナーも本書の内容を中心に以下のように3部構成で展開されました。

  1. 『バルセロナの哲学はフットボールの真理である』の内容紹介
  2. 『バルセロナの哲学はフットボールの真理である』の練習メニュー解説
  3. 日本の育成年代にスペインの育成メソッドは応用できるのか

1部に関しては、拙ブログにて『バルセロナの哲学はフットボールの真理である』のレビューを書いていますのでそちらをご覧いただければ良いかと思います。セミナーでは村松さんが本書内で印象に残った言葉をスクリーンに投影しながら解説する流れでしたが、僕がレビューで引用した箇所と概ね同じでした(嬉しい!)。

特に村松さんが繰り返し強調していたのは「自己組織化」「サッカーをシンプル化してはいけない」「明確なのは、何も明確ではないということ」といった複雑系に関するワードです。リージョの言葉もよく引用されていました。

それを踏まえて、2部では本書内で紹介されている練習メニューについて動画を用いて解説がなされました。基本的にはフリーマンを活用したポジションゲームが多く、ポジションゲームを実施する狙いを以下のようにまとめていました。

  • ボール保持者に1枚ディフェンスがつけば周囲には必ずフリーの選手がいることを認識させること
  • 奥行きのあるポゼッションを意識させること

ただ、フリーマンを活用したポジションゲームは実際の試合の環境とは異なるため、「サッカーはサッカーをすることでうまくなる」という村松さんのキーメッセージとは若干ずれています。このことをご本人も認識しながら、それでも上記2点を狙いとするために重要だとおっしゃっていたのが印象的でした。

そして3部では、これらのスペインのトレーニングメソッドを日本で適用したらどうなるか、という村松さんの実体験による考察が紹介されました。

日本での応用、福岡でうまくいき、水戸では・・・

結論から言えば、福岡のバルサスクールではスペインのメソッドがうまくいき、現在担当している水戸ホーリーホックでは必ずしもうまくいっているとはいえない状況とのことです。

その理由を要素還元的に示すことは難しいものの、最たる理由として対象の世代の相違を挙げていました。福岡はJr.世代であったのに対し、水戸はJr.ユースです。Jr.世代はまだスポンジのように新しいことでも何でも吸収してくれますが、Jr.ユース世代はある程度習慣化されたプレーが身についてしまっており、その状態で新しくスペイン流といっても難しさがあると感じているようでした。

そのため、現在は映像を活用したり身体の使い方の矯正を施しながら工夫をしてトレーニングに取り組んでいる真っ最中とのことです。

プレイヤーズファーストとはなんだったのか

さて、ここからは僕の考察です。『バルセロナの哲学はフットボールの真理である』にもたびたびメッセージが登場するリージョによれば、フットボールは選手中心。選手にそぐわないプレーモデルをコーチが押し付けるのはナンセンスと口酸っぱく言っています。

また、その裏表として、4番(ピボーテ)の選手はずっと4番なのだから、選手の獲得時点で4番の選手を連れてくる必要があるとも言っています。

であれば、習慣化されたプレーが身についたJr.ユース世代に新しいプレーモデルを教えこむのは誤っているのではという疑問が浮かびます。プレイヤーズファーストではないのか、と。

そこで、セミナーの質問コーナーで真っ先に上記の疑問について質問してみました。それに対する村松さんの回答は概ね以下のようなものでした。

その疑問に関しては自分も何度も自問自答した。確かに、習慣化されたプレーを大事にしてプレーモデルを構築したいという気持ちもある。ところが、そういった選手たちが自分たちの最高のパフォーマンスを出しきっているかといえば決してそうではない。選手たちがギリギリのプレーをしているのであれば、それを最大限尊重したい。しかし、実際はもっと良いパフォーマンスを出せるのに、それを知らないから出せていないように思える。なので、選手たちがパフォーマンスを発揮できるように教えることを優先した。

この回答は村松さんの熱がこもっていたこともありますが、非常に納得的でした。もともと僕もこの考え方に近いです。プレイヤーズファーストは聞こえは良いですが、完全にプレイヤー優先にすることはある意味「指導放棄」にもなりかねません。『日本はバルサを超えられるか』(筆者のレビュー)において村松さん自身以下のように語っています。

まったく教えないというのは指導放棄になってしまいます。単に放置するだけでは基本の習得すらままならず、子どもの遊びの延長になってしまう危険性もある。そのためにも選手が自らトレーニングをオーガナイズできるためのノウハウの提供は必要で、もしかすると自分たちでトレーニングを組み立てる選手たちを対象とした「指導者選手講習会」の需要が出てくるかもしれません。
(中略)
私が今春まで指導していたバルサスクールでは、誤解を招くかもしれませんが「教えすぎている」と言っていい状態です。ただしそれは、ゲーム形式の練習を通じて、判断材料を与え、教育するという感じの詰め込みで、一般的なつめ込み指導とは異なると自負しています。(P.66-67から引用)

帰納だけに頼ってはならず、演繹的な視点も用いることによってアブダクション(仮説推論)が生まれます。その止揚のポイントを探る事こそが指導の模索なのだと思います。拙ブログの教えずに気づくのを待つのか、教えて気づきに足場をかけてあげるのかにも考察がありますのでよろしければ参照ください。

認知、判断、実行という汎用性

村松さんもセミナーの中で「レベルが高い選手は(プレーモデルの変化にも)適用可能」とおっしゃっていました。ここでいう「レベル」とは、認知、判断、実行のうちの認知や判断に優れているという意味合いだと思います。認知や判断が高いレベルでできれば、どのようなプレーモデルにも適用可能というのはまさにその通りだと思います。だからこそ、最近のサッカー指導では認知、判断、実行と教えています。

『ドイツ流攻撃サッカーで点を取る方法』(筆者のレビュー)では以下の記述があり、まずはフィロソフィ(プレーモデル)に縛り付けないことが大事と強調しています。

16歳までは選手を指導者のフィロソフィー(哲学)にしばりつけるのは避けるべきで、まずは選手が多くのオプションを持てるように指導し、そしてそのオプションを試合中にフレキシブルに応用できるように育てるべきです。選手が学んだオプションを試合で有効に使うためには、一瞬の状況判断のスピードをあげられるような実戦的なトレーニングが必要です。選手たちが状況に応じてフレキシブルに対応し、選手自らが応用できるようになることが重要なのです。(P.7から引用)

村松さんが水戸ホーリーホックで直面しているのは、認知や判断が(高いレベルで)できていないJr.ユース世代に対する指導の難しさではないかと邪推しています。テクニック主導でJr.ユースまで成長してきたため、応用が効きにくいということではないかと。

これらのことから育成年代への指導で大切なことを大局的に捉えれば、以下の2点に集約できると僕は考えます。

  • プレイヤーと指導者がそれぞれ帰納と演繹、ボトムとトップの両者から意見を綜合(≠総合)すること
  • プレーモデルに影響されない認知、判断、実行のプロセスを徹底すること


村松さんの書籍は他にもオススメがありますので興味があれば手に取ってみてください。『FCバルセロナスクールの現役コーチが教えるバルサ流トレーニングメソッド』(筆者のレビュー)は判断ができるようなトレーニングメニューを紹介しています。『テクニックはあるが「サッカー」が下手な日本人』(筆者のレビュー)は戦術的ピリオダイゼーション理論について詳しく知ることができます。

 



tags バルサ流育成メソッド, プレイヤーズファースト, プレーモデル, 戦術的ピリオダイゼーション理論, 村松尚登, 自己組織化, 認知、判断、実行


初学者のためのトレーニングメニューの紹介。

本書は主にお父さんコーチをはじめとするコーチ初学者のためのトレーニングメニュー本である。ただ、初学者向けだからといって単純なメニューを紹介しているわけではなく、村松尚登氏らしくほとんどのメニューが状況判断を伴ったものとなっていてサッカーの本質を実践的にトレーニングできる内容となっている。

自分でメニューを作ることが難しい初学者はまずは本書のような書籍を参考にしてメニューを模倣し、少しずつ中級者向けの書籍を用いてメニューをアレンジしたりするのが良い。中級者向けとしては例えば以下の書籍が参考になる。

 

戦術的ピリオダイゼーション理論とは何か

本書では冒頭のP.16-27を用いて戦術的ピリオダイゼーションについての説明がなされている。ただし著者の村松尚登氏も言うように、読み飛ばし可である。

この理論を知らなければ本書で紹介しているトレーニングメニューを実践に移せないというわけでは決してありませんから、この理論編を飛ばしてトレーニングメニューに進んでいただいても全く差し支えはありません。(P.16から引用)

戦術的ピリオダイゼーションとは、サッカーを要素還元主義的に捉えずに複雑系として捉え、サッカーで必要なテクニックなどは単体で取り扱うのではなくコンテクスト(文脈)といっしょに取り扱わなければ意味がないということを謳う理論である。

このことを理論の提唱者であるビトール・フラデ教授は「サッカーはカオスでありフラクタルである」と表現し、村松尚登氏は「サッカーはサッカーをすることで上達する」とキーメッセージにまとめている。

筆者が小学生のころはコーンを並べてジグザグドリブルの練習をよくさせられたものだが、こういった練習はサッカーに必要な状況判断やプレッシャーがないため、戦術的ピリオダイゼーション理論に則ればあまり意味のないものということになる。村松尚登氏も「はじめに」で次のように語っている。

本書に記載されているトレーニングメニューは、単調な反復練習ではなく、「サッカーをやりながらサッカーを学ぶ」、つまり決められたとおりの方法でトレーニングをこなすのではなく、状況判断のある環境の中で取り組むことを意図としています。サッカーでは常に状況判断が求められます。皆さんは、2人組のパス交換やコーンを並べたドリブル練習など、実はサッカーの"重要な要素"が欠けている反復練習を子どもたちに課していませんか?(P.2-3から引用)

こういった考え方に少しでも賛同できるのであれば、ぜひ本書のトレーニングメニューを試してほしい。状況判断を伴ったテクニック、攻守の切り替え、疲れているときの攻め方守り方などが網羅されており、まさに「サッカーはサッカーをすることで上達する」を地でいく内容ばかりである。

チームとして大事なのはプレーモデルの構築

また、同理論ではチームを強化するために最も大切なのはプレーモデルであると説いている。

プレーモデルとは、そのチームが目指すサッカーとしての全体像、または最終目的を意味します。チームを率いる監督の理想像と考えれば、理解しやすいでしょうか。サッカーはメンバーやコンディション、ピッチの条件や気象条件によって試合展開が大きく変化するスポーツです。このような偶然性の特長を持つサッカーに必然的な法則性を見出すためには、チームとしての方向性、すなわちプレーモデルを設定しなければ、チームを統率するための規律は生まれません。(P.22から引用)

ただし、「どのようなプレーモデルが良いのか」「プレーモデルに適したトレーニングはどのようなものか」といったことまでは本書には書かれていない。プレーモデルはそれぞれのチームで異なるものなので一概には書けないということもあるのだろうが、それでは初学者は困ってしまう。そこで、まずは守備から硬めてカウンターで勝利を狙うようなチームが目指すプレーモデルの構築に役立つのが先にも紹介した『4-4-2ゾーンディフェンス トレーニング編』(筆者のレビュー)である。ゾーンディフェンスの徹底とリスクを踏まえたカウンターによる攻撃を志向するプレーモデルからチーム作りをはじめ、徐々にサイドや中央を使った攻撃を構築するトレーニングが体系的にまとめられている。

ちなみに、戦術的ピリオダイゼーション理論について理解を深めたければ村松尚登氏の『テクニックはあるが、「サッカー」が下手な日本人』(筆者のレビュー)を読むのが良い。村松尚登氏の戦術的ピリオダイゼーション理論との出会いやスペインでのコーチ生活の苦悩などが冒険譚のような形でまとめられており、非常に勉強になる。



tags トレーニングメソッド, トレーニングメニュー, プレーモデル, 戦術的ピリオダイゼーション理論, 村松尚登

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とある研究所が世間を賑わせているので、ここで研究所とサッカーの同質性から戦術の今後について思考を巡らせてみたい。

素晴らしい発明が生まれる研究環境とは

研究所は通常の営利企業とはいささか趣が異なる存在である。短期的な利益を求めないなどの側面ももちろんその通りだが、最大の相違点は一般的な営利企業であれば大きなユニットで見ればお互いの仕事が連関しているのに対し、研究所では個々の研究者が実施している研究の互いの関係性が薄いということに尽きる。

このあたりの研究環境の話題について、ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈氏は次のように語っている。

最も好ましい研究環境を一口でいえば、"組織化された混沌"とでも表現せねばならない。部分的に見れば研究者は自由奔放に仕事を進めているので混沌としているが、研究所全体としてはバランスがとれ、秩序がある状態をいう。

このように相反する言葉を組み合わせて使うことを撞着語法(オクシモロン)という。自然科学も社会科学もこういった自己矛盾について突き当たることが多く、誤謬を発生させずにいかに止揚(アウフヘーベン)するかがキーになっている。

サッカーにおける現代的な戦術とは バルセロナの例

クライフはバルセロナのサッカーを「ボールが的確に選手間を動き続け、選手たちは頻繁にポジションを移すが、チームとしてのバランスは常に保たれる」と表現している。

この状態は上述の研究所における「組織化された混沌」に似ている。個人に着目すると一見秩序だっていない行動をしているように見えるが、全体として俯瞰した場合にはバランスが保たれていることが求められる。自己組織化できている状態である。バルセロナのサッカーをポジションサッカーと呼ぶ所以もここにある。

『リーダーシップとニューサイエンス』にも記述があるように、もの(選手)は単体としては意味をなさず、選手間の関係こそが本質的であるということである。

量子の世界では、関係がすべての決定権を握っている。原子より小さい粒子が形状として観察できるのは、何かほかのものと関係があるときだけだ。独立した「もの」としては存在しない。基本的な「構成要素」はないのだ。(P.25から引用)

自然科学の世界における動的平衡

自己組織化は福岡伸一氏の言葉を借りれば動的平衡である。人間のタンパク質はミクロのレベルで見れば常に入れ替わっているが、人間そのものというマクロのレベルで見れば変化はない。系全体で見れば平衡が保たれており、これもまた「組織化された混沌」である。

活かされるべきは全体か個か

ここまで見てきたように、研究所もサッカーも自然科学も全て「組織化された混沌」に支配されており、オートポイエーシス(自己構成的)である。よって、クライフも言うように、サッカーで大事なことはこの撞着的な状態の中でいかにバランスを保つかということになる。

全体か個かという要素還元的な考えは基本的にはすべきではないが、自然科学的に見れば犠牲になるのは個である(個であり全体でもあるという自己相似性に依れば個と限定するのはまずいかもしれないが)。福岡伸一氏は『生物と無生物のあいだ』において次のように「個」であるタンパク質が犠牲になり人間という秩序を保っていることを示している。

秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない。(P.166)

そう考えたとき、サッカーではプレーモデル(組織)を重要視するのかそれともプレイヤー(個)を大事にするのかという疑問にいきつく。もちろん、どちらかという選択はできないが、具体的なプレーに落とし込んだときにはプレーモデルを優先すべきか迷う場面もあるだろう。

プレーモデルを確立しているように見受けられるグアルディオラが師とあおぐフアン・マヌエル・リージョは「個であり全体である」という全体論を重視しつつも、個が活かさた結果として全体を形作ると語っている点でおもしろい。つまり、プレーモデルのグルと思しき急先鋒の存在が「優先すべきは個である」と言っている。このことをリージョは『フットボールサミット第12回 FCバルセロナはまだ進化するか』(筆者のレビュー)の中で次のように語っている。

才能豊かな選手が増えることによる成長は、チームが成長していく上で重要なポイントになるということ。個々の長所を結びつけることで、集団にうまく還元されていくのである。(P.50から引用)

個が優先されるという考えは一見すると自然科学に抗っているが、果たして。

個人的にはリージョの言うとおり、パラダイムとしては「プレーモデルを破壊しうる個」として個の存在が再注目されつつあるのが現代サッカーの潮流になるかもしれないと感じている。ブラジルワールドカップでスペインやドイツが1人のプレイヤーに引き裂かれることがあればまた世界のサッカーは混沌とした方向に向かうかもしれない。もしくは、それすらも秩序の中に放り込もうとするようなリフレーミングが起こるか。非常に楽しみである。


サッカーにおける自己組織化や再帰性などのニューサイエンスについて興味がある方はオスカル・P・カノ・モレノの著書が参考になる。

『バルセロナが最強なのは必然である』(筆者のレビュー
『バルセロナの哲学はフットボールの真理である』(筆者のレビュー

 



tags アウフヘーベン, オクシモロン, オートポイエーシス, バルセロナ, プレーモデル, 動的平衡, 撞着語法, 組織化された混沌, 自己組織化

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プロフィール

profile_yohei22 yohei22です。背番号22番が好きです。日本代表でいえば中澤佑二から吉田麻也の系譜。僕自身も学生時代はCBでした。 サッカーやフットサルをプレーする傍ら、ゆるく現地観戦も。W杯はフランスから連続現地観戦。アーセナルファン。
サッカー書籍の紹介やコラム、海外現地観戦情報をお届けします。

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