昨今、スペインをはじめとする海外の先進的な研究に基づいたトレーニング理論が日本でも紹介、流通し始めている。各トレーニング理論に細かい違いはあるものの、概ね共通している点としては次の2つのポイントがあるように思う。

テクニック(実行)だけでなく、その前の認知や判断を重要視すること

知のサッカーでは認知・判断・実行という言葉を使い、『スペイン流サッカーライセンス講座―「育成大国」の指導者が明かす考えるトレーニング理論』では知覚・判断・実行と呼んでいる。中身は同じである(原語では同じ単語なのかもしれない)。とかくテクニック(実行)が注目されがちな世界の中で、その前に頭の中で起こる認知(知覚)と判断をおろそかにしては一流にはなれない。『スペイン流サッカーライセンス講座』に次のような記述がある。

ボールを扱う技量という点にのみ目を向ければ、現在のプロ選手以上にうまい選手はたくさんいます。しかし、彼らと第一線で活躍するプロ選手には大きな違いがあります。それは、自らが持つ技量をプレーに正しく落とし込むことができるかどうかです。つまり優秀なプロ選手になるには、試合で使える技術を持っていなければならない、ということです。(P.32から引用)(太字は筆者強調)

ゲームそのもので起こりうる状況を踏まえたトレーニングが重要であること

各トレーニング理論では、トレーニングをいくつかの種類(メソッド)に分けている。

例えば知のサッカーでは次の2種類である。


インテレラショナード・トレーニング―スペイン・サッカー最新上級者向けメソッド』(筆者のレビュー)ではフィジカルにやや重みを置いてアナリティコ(単体)、インテレラショナード(フィジカル+α)、グローバル(技術+戦術)という言葉を使い分けているし、『スペイン流サッカーライセンス講座』ではアナリティコ(単調な反復)、インテグラル(複合的)、エストゥルクトゥラード(実戦的)といった具合である。

これらのポイントを学ぶにつれ、これは僕が携わっている人事の学習理論とまったく同じ変遷をたどっていると感じた。そのことについて次に述べたい。

3つの学習理論

人が学ぶということは一体どういうことなのだろうか。

単純なようで奥深い問いに教育学者や心理学者たちは長年向き合ってきた。数多ある研究の中で、学習における心理学研究が学習をどのように捉えてきたかの変遷を『企業内人材育成入門』を参考に紹介したい。

大きく分けて「行動主義」「認知主義」「状況主義」の3つの考え方が存在している。

行動主義は刺激と反応によるスモールステップ

行動主義とは、反復練習によって繰り返し行動することにより学習効果を高めていく考え方であり、最も古くから存在するものである。同じ行動を反復するために、限定された環境の中で行われることが意図され、初期の研究で有名なのがスキナー箱である。

行動主義の中心的概念は「刺激」と「反応」、そして「強化」である。

例えば何か問題を解く場面を想定してほしい。出された問題に対し解答し、正解したら褒めてもらえるとする。この場合の問題が刺激、解答を出す行為が「反応」、褒められることが「強化」というわけである。

認知主義はコンピューターのアナロジー

認知主義は、行動主義ではアプローチのできなかった人間の頭の中の情報処理に着目した点でより発展したといえる。

コンピューターはインプット、演算、アウトプットという大きく3つの処理が走っており、演算をさらに分解すればデータの保存や計算といった処理が存在している。これになぞらえて人間の知的な振る舞いが説明できるとしたのが認知主義である。

単なる刺激と反応という行動主義の捉え方ではなく、刺激を認知し、判断し、行動に移すというプロセスがあるはずであり、その情報処理について知ることが学習をもっと効果的にするために必要なことであると説いたのである。

状況主義は環境との相互作用

限定された環境における刺激と反応が行動主義、知的振る舞いの情報処理のプロセスに着目したのが認知主義であるのに対し、状況主義は頭の中というよりも環境要因に注目した理論である。

人は何かを実践するとき、頭の中だけで考えて実施するというよりは、状況に応じてやり方を変えるのが通常である。すなわち、実際の環境の中でどのように振る舞うか、どういう相互作用を生み出すか、といった点が焦点となる。


ちなみにこれらの理論は、何が正しくて何が間違っているというわけではなく、すべて学習の一側面を論じているものである。

学習と仕事を結びつける正統的周辺参加

ビジネスを本分とするビジネスパーソンにおいては、学習が最終目的ではなく、学習した内容をビジネスにおいて発揮することが目的となるはずである。このように考えれば、学習とビジネス(仕事)は二項対立的な概念ではなく、一体化された枠組みで捉える必要があることが分かる。こういった考え方として提唱されたのが「正統的周辺参加」である。

正統的周辺参加については『企業内人材育成入門』から以下の説明を引用する。

共同体の実践活動に参加するとき、学習者が意識しているのは、「問題意識の育成」や「知識・スキルの修得」といったシステマチックに細分化された目的ではなく、トータルな意味での実践活動における行為の熟練である。他者の目には、「彼は知識を身につけている」とか、「彼女は重要な問題点に気づいた」と映るような状況であっても、学習者本人にとっては「いい仕事をしよう」と思っているだけで、「今、自分は学習している」という意識はないということだ。(P.97から引用)

ここでの主張は、学習は状況に埋め込まれている、ということである。そして、状況を無理やり作らなくてもビジネスを実践することが状況そのものなのであるから、ビジネスを実践しながら学習することこそが本来の姿であるとしている。

トレーニング・メソッドと学習理論

さて、もう既にお気づきのことと思うが、サッカーにおけるトレーニング・メソッドの発展と、学習理論の発展はまったく同じことを言っている。

サッカーのトレーニングでは、サッカーをサッカーとして捉えることが重要とされ、そのためには試合で起こる状況を踏まえたトレーニング、もしくは試合そのものを実践することで成長が促されるというのが潮流である。

学習では、ドリルの反復練習のような限定された環境の学習ではなく、学習は状況に埋め込まれていると捉え、状況に応じた相互作用から学ぶことが重要とされている。

理論を突き詰めて尖ってくると、行き着くところは結局同じ。異なる分野の研究からこういった相似性を発見できることが、知的探求における愉しさですね。



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