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就任1年目でJ1優勝した森保一監督の流儀。

本書は、J1の2012シーズンで優勝を飾ったサンフレッチェ広島の森保一監督による「大切にしていること」集である。ヴァンフォーレ甲府の城福浩監督が2012年6月に『Jリーグサッカー監督 プロフェッショナルの思考法』を上梓した際には「日本人監督で現場に立ちながらサッカー本を出した人はいない」と言っていたが、その後に川崎フロンターレの風間八宏監督、そして意外(と言ったら失礼か)にも森保一監督も出版することとなった。今後もこの流れは続きそうである。

城福監督も森保監督も戦術面の際どいところには触れずに、自身が監督を続けていく上で大切にしていることを綴っている点で著書の系統は似ている。しかし、その構成は両名の思考スタイルの違いもあってか、かなり異なるものとなっている。

城福監督は熱い情熱の持ち主である一方でロジカルな思考の持ち主である。何か発言するときはその拠り所を明確にするし、主張には根拠を必ず添える。城福監督のことを誠実である、と表現するときはどちらかというとアカウンタビリティ(説明責任)のようなものを大切にしているところや責任感が人百倍強いといったイメージが先行している。

森保監督はもちろんロジカルに考える御仁ではあろうが、どちらかというと帰納的なアプローチで発言することを厭わないタイプである。日本代表や所属クラブでキャプテンを務めたことなどの経験から自分が正しいと思っていることを素直に発言している。森保監督の誠実さは、正直で素直で真面目というニュアンスが含まれる。

このタイプの相違は、著書の目次構成から推し量ることができる。

城福監督の『Jリーグサッカー監督 プロフェッショナルの思考法』の目次

  1. チーム編成論
  2. マネジメント論
  3. 采配論
  4. 戦術論
  5. 育成論


森保監督の『一流(はじめりゅう)』の目次

  1. 選手全員の力を伸ばしてあげたい
  2. 始動
  3. 新人監督としてのテーマ
  4. 継承と融合
  5. いい続けたこと
  6. 自然体
  7. 安定感
  8. 捨てる勇気
  9. カメのごとき歩み
  10. 回想


もちろん、前者は城福監督が自身の思考スタイルを整理して体系的に示すことを目的としたもの、後者が時系列の歩みも含めながら順を追って説明したものであるというそもそもの目的の違いもある。編集の好みもあるだろう。それにしても、この相違は両監督のタイプを如実に表していると言って差し支えないはずだ。

森保監督の素直な側面は本書内でも随所に登場する。

まずは、誰を先発メンバーで使うか。チームがうまく機能している場合には、あまりメンバーをいじらないのが鉄則とされる。ただし、調子がいいとしても、悩むときは悩む。
控えメンバーにすら入れてやれない選手たちのことを思うと、正直つらくなってくる。この作業って、オレの性に合わない、オレって監督に向いてないのかもしれないなどと考えてしまうこともある。(P.90-91より引用)
ボクは、試合が始まるとついつい叫びまくって指示を与えてしまう。選手たちと一緒になって戦っている気持ちになるからだ。でも、それがプレーを判断する選手たちの目をくもらせてはまずい。
あるとき、「大丈夫?オレ、うるさくない?うるさかったら、そういってくれよ。(指示出しを)やめるから」と選手たちに聞いたことがあった。
「いや、大丈夫ですよ。一緒に戦いましょう」
なんて監督思いの選手たちなんだ!(P.107より引用)

それでも森保監督がチームを牽引しているのは高いレベルでの自己認知を伴っていたからだ。自身が優柔不断で元来決断が遅れがちなタイプであるからこそ仕事としての決断ははっきりしていると言及しているし、以下のような発言もある。

そもそも話すのを得意とするわけではないボクにとって、伝えることの難しさはたぶん永遠の課題といえるだろう。変にうまく話そうとするよりも、とにかく素直な感情で、真摯にストレートに伝えることを心がけている。(P.113より引用)

新人監督としてJ1を制覇した手腕は見事であり、その哲学や優先順位に耳を傾けることは監督という立場を超えて社会人として参考になることも多い。

なお、著者の印税は東北地方におけるサッカー復興のために活動する団体東北人魂に全額寄付されることになっている。



tags Jリーグ監督, サンフレッチェ広島, 一流(はじめりゅう), 城福浩, 森保一


城福浩監督の情熱と論理が詰まった監督目線のリアルな思考法。

本書はヴァンフォーレ甲府の監督である城福浩氏が「監督とは一体どのようなことを考えているのか」について持論を展開したものである。チーム編成、マネジメント、采配、戦術、システム、育成と話題は多岐に渡り、監督の思考がひと通り理解できる。

本書が特に優れていると感じる点は2つある。

1つ目は、現役の監督による出版であるという点である。あとがきに著者自身が「私の知る限り、日本人監督で現場に立ちながらサッカー本を出した方はいません」と記している。滅多にお目にかかることのできないリアルな目線と具体的な苦労話などにあふれており臨場感がある。

2つ目は、本書がいわゆる大所高所からの評論ではなく、城福浩氏自身がどのように考えているのか、そしてその根拠はなぜかということについて具体的な事例とともに分かりやすく書かれている点だ。かといって持論だけを紹介しているわけではなく、監督の仕事として網羅すべき内容について紹介しつつ各項目について考えを書いているので漏れはなく読後感も良い。

筆者は城福浩氏の有料メルマガ城福浩の『今魅せる!城福ノート』も購読していた(現在は休刊扱い)が、本書もあわせ感じたことは氏の真面目で実直な人柄である。決して誰かを批判するようなことは書かない。これはメルマガからの引用であるが、2011年8月31日配信の31号で以下のように述べている。

どうしても言えないもの(それが最もコアな部分であることが多いのですが)を割愛してます。
私は今はいろいろ書くという作業が多いですが、常に現場に戻った時の自分の立場も考えているものですから、現場仲間を窮地に追いやる可能性のあることは書けないのです。

なので、本書にも「裏話」に相当するような箇所はほとんどなく、FC東京時代の長友や今野についてチーム編成時の舞台裏がわずかに紹介されている程度だ。

また、自分の考えを書くときは必ず自分なりの根拠を示しており、そこにも真面目さが伺える。城福浩氏はどのチームにおいてもポゼッションを戦術の中心に据えており、その理由を以下のように記している。

私はこれまで指揮を執ったどのチームでもポゼッションサッカーを掲げてきました。(強調は著者によるもの)
(中略)
それは、パスサッカーが自分の好みであり、攻撃が好きだから、ということももちろんあります。しかし、何よりも選手に「楽しい」と感じてほしいと思っているからです。
選手というのは、プレーしていて楽しくなかったり、上手くなっている実感が湧かなかったりすると、なかなか向上心を持てないものです。さらに、選手が楽しんでプレーしていなければ、見ているファンやサポーターの方々が楽しめるはずがありません。
では、選手にとっての「楽しみ」とは一体何でしょうか。私は「ボールにたくさん触ること」だと考えています。(P.118より引用)

もちろん、戦術面におけるポゼッションサッカーの特徴を考えた上での上記の発言である。

こういった肝の座ったブレないスタンダードが熱い言葉とともにいくつも紹介されている。以下はその一例である。

  • 試合の翌日に最も優先的に考えるのは試合に出なかった選手たちのこと
  • 木曜日は週のトレーニングのなかで選手たちに対戦相手を最も意識させる日
  • 自分たちの試合の映像や対戦相手のスカウティングの映像は12分にまとめる
  • システムありきの考え方に否定的な立場を取っている
  • 「この指導者は子どもから判断力を奪っていないだろうか」と、親が見極めることも大事

現場の人間の考えほど帰納的なインプットとして役立つものはない。こちらの考えと対峙させる練習にもなるし、自分の浅い考えが一蹴される痛痒くそして清々しい経験も現場からの重い一撃があればこそである。

しかし、現役監督の考えが根拠とともに詳しく聞ける機会はそう多くない。通常、現役監督という立場の人間は記者会見でも記者の取材に対しても本質的な部分や具体論については話さない。本書は稀有な存在として、また今後の「現役監督からの出版」という道筋を開いた存在として、語り継がれる一冊となるだろう。



tags Jリーグサッカー監督 プロフェッショナルの思考法, 城福浩

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プロフィール

profile_yohei22 yohei22です。背番号22番が好きです。日本代表でいえば中澤佑二から吉田麻也の系譜。僕自身も学生時代はCBでした。 サッカーやフットサルをプレーする傍ら、ゆるく現地観戦も。W杯はフランスから連続現地観戦。アーセナルファン。
サッカー書籍の紹介やコラム、海外現地観戦情報をお届けします。

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