4月21日に御茶ノ水で開催された畑喜美夫氏による「ボトムアップ理論で子どもの自主性を伸ばす!!」セミナー(主催:ジュニアサッカーを応援しよう)を聴講してきました。自主性を開放するアプローチとして有効なボトムアップ理論についてセミナーを通じて改めて考えたことをまとめておきます。

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ボトムアップ理論とは何か

ボトムアップ理論については拙ブログのボトムアップ理論はプレイヤーズ・ファーストを具現化する新しい指導の形に詳しく書きましたのでよろしければご覧ください。冒頭の紹介を引用しておきます。

プレイヤーは練習メニューから公式戦に出場するメンバー、戦術、選手交代などをすべて自ら決定していく。指導者は必要に応じて問題提起などを対話を通じて行いながら、プレイヤーの可能性を引き出すファシリテーターとして機能する。

こういった選手の自主性は部活の中だけで養われるものではなく、日常生活すべてを通じて涵養されるものです。普段から自主的に動けない選手が部活や試合の中で突然自主的になれるはずがありません。畑さんもセミナーの中で次のようにおっしゃっていました。

サッカーはサッカーだけで上手くなるのではなく、サッカーは日常生活を含んだ全てで上手くなる。

ところがこれを聞いて「なんか聞いたことあるフレーズに似ているぞ」と思った方も少なくないのではないでしょうか。そうです、村松尚登さんが戦術的ピリオダイゼーション理論を説明するときに使われている「サッカーはサッカーをすることで上手くなる」というキーフレーズです。ちょうど畑さんのセミナーの1週間前に村松さんの「バルサ流育成メソッドを学ぶ!」セミナー(筆者のセミナーレポート)を聞いたばかりということもあり、両氏の主張にどのような違いがあるのか自分なりに考えてみました。

戦術的ピリオダイゼーション理論で取り扱っている要素は拡張要素

まず、戦術的ピリオダイゼーション理論について簡単な図をもとに整理してみます。

戦術的ピリオダイゼーション理論では、サッカーを要素還元的に分解するのではなく総体として捉えることを提唱しています。つまり、技術、戦術、フィジカルといった要素を個別に鍛えてもサッカーという複雑系システムをプレーするためには十分ではないということです。非線形的な言い方をすれば、「全体とは部分の総和以上の何かである」ということになります。

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ここで取り扱っている総体としての「サッカー」に含まれている技術、戦術、フィジカルなどは、練習をすることで積み上げていくことができます。積み上げようとトレーニングをすれば、積み上げの程度に差こそあれ、「減る」ということはありません。

つまり、戦術的ピリオダイゼーション理論で取り扱っているのは、トレーニングをすることで積み上げていくことができる「拡張要素」であるということができます。

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ボトムアップ理論で取り扱っている要素は平衡要素

次に、ボトムアップ理論です。

ボトムアップ理論では、サッカーは日常を含めた一連の活動の一部として捉えます。日常生活の中で準備をする大切さを体感したり心を整えたりすることでサッカーに臨む質も高まる、という位置づけです。

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ここで取り扱っているのは技術、戦術、フィジカルなどではなく、それらをトレーニングするための姿勢やモチベーション、試合における平常心など「気持ち」に分類されるものです。気持ちとは皆さんご存知の通り、トレーニングすれば必ずしも積み上がっていくものではなく、増えたり減ったり、上がったり下がったりすることが通常です。

つまり、ボトムアップ理論で取り扱っているのは、必ずしも積み上げることができない「平衡要素」であるということができます。

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両者は異なる要素にアプローチしている

ここまでの整理で分かるように、戦術的ピリオダイゼーション理論とボトムアップ理論は扱っている領域が異なります(もちろん、戦術的ピリオダイゼーション理論でメンタル面のトレーニングもできていると思いますが、ここでは中心的に取り扱っている領域という意味で書いています)。ですので、どちらが優れている/劣っているといった比較ができるものではありません。

畑さんはボトムアップ理論を推奨する理由として『子どもが自ら考えて行動する力を引き出す 魔法のサッカーコーチング ボトムアップ理論で自立心を養う』(筆者のレビュー)にて次のように語っています。

近年、指導者の大半がテクニックや技術論、戦術論にばかり目がいって、チーム指導のベースとなる組織論についておざなりにされている方が多いと思います。インターネットで検索すれば、バルセロナやマンチェスター・ユナイテッドの技術指導の情報は、簡単に手に入れることができます。世界中の強豪チームの指導方法も知ることができます。

でも、その通りに指導したら、どこでもバルセロナやマンチェスター・ユナイテッドのようなチームになれたら苦労はありません。全国の指導者はもう頭打ちの状況で、何か打開策はないか悩まれているんだと思います。

ですから、話題のテクニックや技術論、また戦術論に飛びつきがちですが、大切な指導目的や哲学、組織論について、いま一度、見直しが必要ではないかと思います。(P.130-131から引用)

企業経営においてもモチベーションやコミットメントなどは永遠の課題です。皆さんご存知のことと思いますが、誰かに「やる気を出せ」と言われてやる気が出る人がいないことから分かるように、平衡要素は意図的にコントロールすることが難しい要素です。人々の気持ちにアプローチするのは非常に困難が伴うのです。

ボトムアップ理論が昨今注目されているのは、サッカーにおいてこれまでなかった「平衡要素」にアプローチするメソッドであるからです。技術や戦術だけを取り扱っても何かが足りない。そう気付き始めている潮流にボトムアップ理論がピタリとハマった、そんな感じだと思います。

サッカーが好き、その気持ちを忘れないために

雨で部活が休みになって「やったー!」と喜ぶ。これは本来的に何かおかしいはずです。そもそもサッカーが好きでサッカーをやっているのに、それができなくなって喜ぶとは本末転倒です。畑さんもこれはなにかおかしいとセミナーでおっしゃっていました。

サッカーをやりたいという内発的動機づけをどうにかして呼び起こす。これは週の練習回数や練習時間なども影響していると思いますが、サッカーをプレーしている人がいま一度「サッカーが好き」という原点に立ち返ることができれば、日本のサッカーシーンも様変わりするのではないでしょうか。

ボトムアップ理論は万能ではありませんが、その世界観は知っておいて損はないと思います。


セミナーで話していたことと概ね似た内容が2枚組のDVDとして販売もされています。
1枚目が理論的な背景などの紹介、2枚目が畑さんと他2名の方による座談会でボトムアップ理論についてざっくばらんに語っている内容となっています。



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