中村憲剛のサッカー人生メモワール。

ハーフウェイラインより少し高め。右サイドの味方がボールを持つ。中村憲剛がボールをもらいに右サイドにスプリントする。グラウンダーのパスを左足でトラップした中村憲剛は、ワンステップで右足インサイドでパスができる位置にボールをコントロールする。前線へスルーパスを出そうとするが、そのスルーパスは成功しないと判断し、すぐさまプレーを切り替える。右足アウトサイドで足元のボールを相手にさらさない位置にコントロールし、自身も時計回りに270度旋回。自身の左側のスペースにポジションをあげた味方ボランチに右足アウトサイドでグラウンダーのパス。そのパスを出した脚で即座にスプリントをはじめ、受け手の味方に近寄っていく。

こんな中村憲剛のプレーが僕は大好きである。特に最後の部分、パス&ゴーは中村憲剛の醍醐味であるといってもよい。パス&ゴーを忠実に、速く、確実に実践しており、その姿は機能美すら漂っている。

相手にボールをさらさないように逆を向く技術も素晴らしく高い。その技術は本書によれば、小さな頃に体格で劣っていた中村憲剛が相手に寄せられずにボールをコントロールする術を考えぬいた結果身につけたものであるようだ。そういえば同様のプレーを得意としているバルセロナのシャビも体格面のハンデを克服するために身につけたプレーだと聞いたことがある。

特別な能力もなく、フィジカルにも恵まれていない自分がプロのサッカー選手となり、日本代表までなれたことは自分自身が一番驚いているとのこと。そんな中村憲剛という人間、中村憲剛というサッカー選手はいかにして出来上がったのかを通時的に本人の口から語られているのが本書である。

小学校から大学までのサッカー人生も細かく語られており、まさに中村憲剛のライフログでもある。

これまでの人生で2回サッカーを投げ捨てたことがあり、その経緯やどのように戻ったか、そしてその経験をその後のサッカー人生にどのように活かしているか、といった記述もあり、正直であると同時に人間臭く親しみが持てる。

本書を通じて感じたのは、中村憲剛の卓越な意志の力である。あきらめないこと、努力を続けること。

意志の力を中村憲剛本人は以下のように綴っている。

サッカーでいえば、目の前に転がってきたボールに足を当てただけで得点を入れられたようなときには「ごっつぁんゴール」と呼ばれる。
それができるのが、「持っている」からなのかといえば、そうではないはずだ。
その選手がボールボールがこぼれてくる場所にいなければゴールは生まれない。
そして、どうしてその場所にいられたのかといえば、運だけでなく、「意志」があったからということに違いない。(P.35から引用)
たとえばフロンターレで二年目のシーズンを迎えたときに、関塚監督からボランチへのコンバートを持ちかけられたことは、僕の可能性を大きく広げてくれた。
そういう監督との出会いがあり、そうした転機が迎えられたことが幸運だったのは間違いない。
だけどその提案は、関塚監督の考えにもとづくものであり、その提案を拒まずに受け入れたのは僕の「選択」だった。そこにあったのは運だけではない。関塚監督の意志があり、僕の意志の力が働いていたわけだ。(P.168-169から引用)

僕は大学生向けに講義をしたりすることがあるが、感じることは「他責」が含意された発言の多さである。誰かに言われたからやっている、という言い方をするときは責任の所在を曖昧にしたいという逃げの気持ちの表れである。誰かに言われたとしても、それを「選択」したのは自分であるので、責任は自分にあるはずだ。その意志の力がキャリアを切り開いていく。

中村憲剛はこうも語っている。

それまでにたどってきた道の責任は自分がとるしかないし、変えたいことがあったとしたなら、自分で変える努力をするしかない。不満を口にしていても何も変わらないし、こうしたいと思うことがあるときに、行動に移せるかは自分次第だ。(P.171から引用)


また、フロンターレのプロモーション部の仕掛けを好意的に捉えているようでこれはサポーターとしてもうれしい発言だろう。『僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ』にも記載のある「いっしょにおフロんた~れ」も積極的に実施したようだ。

グラウンドで試合を応援するだけの関係でいるのと、イベントなどで直接、話をしたりゲームをしたりするのとでは、親近感や思い入れなどの面で大きな違いが出てくるのは当然だ。
そういう部分に力を入れているフロンターレというチームにいられることが、僕は嬉しい。サポーターと交流できるイベントがあればどんどん出たいし、そういう機会をつくってもらえることにも感謝している。(P.193から引用)

本書が発売したのは、2014年に向けたW杯アジア最終予選のヨルダン戦を2週間後に控えたタイミングである。発売後に発表された代表メンバーに、もちろん中村憲剛も選ばれている。勝てば世界最速でW杯出場が決まる大事なアウェーの試合。本田圭佑がコンディションの理由で選出されなかったこともあり、中村憲剛の出番が回ってくる可能性は高い。中村憲剛の幸せな挑戦は続く。



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