9人の賢者による本田と香川のシナジーを最大限に引き出すための提言。

敵地ヨルダンにて苦杯をなめたことで世界最速でのW杯への切符は6月へ持ち越しとなったが、ザックジャパンは歴代最強との呼び声が高い。そのザックジャパンの幸せな悩みの筆頭が本田と香川をどのように使い分けるのか、という問いだ。大御所から新進気鋭まで含めたサッカージャーナリストたちが本田と香川の正しい使い方について持論を展開しているのが本書である。

9人共に考察のベースとなる事実情報については認識は共通

まず、本田は強靭なフィジカル、香川はアジリティに優れて、お互いに得点を奪う能力に秀でている選手であるということ。そして2人の関係は当然2人だけの関係性に留まるはずがなく、特に日本が現有するFWの選手(現状では前田)の能力と切っても切り離せない関係にあること。

これらは特別なジャーナリストでなくとも同じような印象を持つことだろう。そして結論としての共存のさせ方も、各論は違えど総論は似ている。

スペシャルなFWを日本は用意することができるか

フィジカルに優れ、外国人の屈強なDFを相手にしてもボールをおさめることができるスペシャリストとしてのFWがいるのであれば、その人物をFWに用いて本田がトップ下、香川が左という考え方が大勢だ。現状では前田という認識だが、年齢、怪我がちのコンディション、能力面などを鑑みて物足りなさを感じているのも事実。

そういったFWがいなければ、もしくは怪我やサスペンションで欠くこととなれば、本田がFW(もしくは偽の9番)という考え方もおおいにあり得る。その伏線となっているのが2012年10月のブラジルとの親善試合における本田の1トップ起用である。前田を怪我で欠いたとはいえハーフナーがいるにも関わらず本田を1トップ起用したということはザッケローニは十分に本田の1トップをオプションとして考えているということである。

例えば大住良之氏はFWを「?」としてトップ下を本田、左を香川を推しており、本書にもこのように綴っている。

本田、香川、そして岡崎という攻撃陣はいずれもヨーロッパで実力を証明しており、ワールドカップでも十分に力を出せるだろう。問題は1トップ、FWだ。前田は技術的にも戦術的にも高い能力の持ち主だが、アジアのDFたちと向き合っても非力さが目立つなかで、ワールドカップで堂々たる1トップとしてプレーするのは難しいように思う。
(中略)
「理想の1トップ」あるいは「ワールドカップクラスのDFを相手にしても機能する1トップ」がいないのでなら、本田の1トップ起用、あるいはブラジル戦で見せたような「ダブルトップ下」という形もあるのではないか。(P.50から引用)

田村修一氏にいたってはFWを闘莉王(!)としてトップ下が本田、左が香川である。

もしも日本に、(性格はともかく選手としての)ズラタン・イブラヒモビッチやエディン・ジェコ(彼は性格も良い)のようなFWがいたら、あるいはロビン・ファンペルシーやロベルト・レバンドフスキのようなストライカーがいたら、攻撃に関しては何も問題がないだろう。しかし現実には、李忠成も前田もハーフナー・マイクも、誰もが一長一短でザックのシステムにぴったりとははまらない。連係面で最もしっくりいく前田にしても、世界のトップを相手にしたときにはまだ未知数である。(P.135-136から引用)

香川はゴール前の密集地帯でスペシャリティを発揮するタイプで、何もトップ下でなくてもペナルティエリア内に侵入するチャンスはいくらでもあるし、日本の攻撃は遠藤、長友とともに左サイドで始まることが多いのでその左サイドに香川を配しておくということもストロングポイントとなる。

一方で本田は世界でもトップクラスのフィジカルがありボールを奪われず、タメを作ることができるので日本としては重宝する存在だ。真ん中にズシンと構えてもらうことがチーム力の底上げにつながる。

そういった事情もあって、FWがいれば本田がトップ下、FWがいなければ本田をトップにして香川をトップ下で使うという次善の策というのが本流であろう。

個人的にも同じ意見、香川の能力はサイドでも活きるし、本田は真ん中こそ活きる

香川がサイドで窮屈そうにプレーしているとのコメントを見ることがあるが、具体的にはどのような場面のことを指して窮屈と表現しているのだろうか。香川はトップ下でも90分のうち88分くらいは「窮屈そう」にプレーしているし、その窮屈さの中で異能を発揮するのが香川だ。ただし、毎回密集地帯を破壊できるはずがなく、5回に4回は失敗である。それが窮屈そうに見えるだけだと思う。

密集地帯への侵入はサイドからでも十分に回数を重ねることができる。右サイドの岡崎が好例だ。本田とのコンビプレーでカットインしていくこともできるし、長友を活かすのもうまい。

本田の特徴がフィジカルにあることは言うまでもない。それだけで真ん中で使う意味がある。ただ、個人的にはもう1つ本田を真ん中で使うべき理由を挙げたい。

本田は、パスを出す寸前までどこにパスを出すのか相手に読みにくいような足の使い方をしている。

馬鹿正直なインサイドパスはほとんど使用せず、走っているテンポと同じ足の動きから突然アウトサイドでパスを出したりする。この動きがDFにとっては非常にいやらしいのである。世界ではドイツのエジルがこのパスの出し方が非常にうまい。

パスの出し手がインサイドの構えをすれば、パスの受け手のマーカーは当然間合いを詰める。読みやすいからである。しかしいつパスを出してくるか分からなければ、間合いは一定に、ダイアゴナルを意識して位置取りをしなくてはならない。このコンマ数秒のタイミングのズレが実は致命的なプレーになる要素を秘めている。

この読みにくいパスはトップ下からの展開でこそ活きる。ビルドアップの時点では正確性を最重視する必要があるのでなかなかこういったパスは使えない。一方でサイドからの展開ではそもそもパスコースが多くないので相手には「読みにくさ」が存在しない。視界が開けている中央からの展開でこそ、活きるのである。

FWには屈強さが必要なのか、世界と戦う上でのザックの判断は

ロンドンオリンピックで大迫をメンバーから外し永井を1トップで使ったのは、日本は世界と与するときはポストプレーをするような攻め方はしないということ、そしてその戦い方がベスト4という結果からある程度通用することを示した。

永井の特徴はスピード。狙うはショートカウンター、もしくは通常のカウンターである。世界の強豪は日本と戦うときはラインをあげて押し込んでくるのでカウンターは当然有効なプレーとなる。

さて、当のザックジャパンはどのような戦い方を選択するのか。岡田武史前監督はW杯直前まで中村俊輔を中心としたパスサッカーで世界と戦おうとしていたが直前に本田、松井、大久保の3枚で攻める守備的なカウンター戦術を選択した。そしてベスト16進出を果たした。

2010年と同じカウンター戦術を選択するのでは、日本に進化はなかった、もしくはそれが日本に合った戦い方だということになる。パラグアイのように常に守備的な戦術を取る国もあるわけだから何もカウンターが悪いということでもない。本番に限っては美しく負けるよりは何が何でも勝ってほしい。

6月から始まるコンフェデが1つの試金石になる。楽しみで仕方ない。



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