シーズン途中の監督交代は効果があるのかないのか。

監督を交代すべきか、それとも辛抱すべきか。勝てない時期が続けば監督交代が叫ばれる。しかし監督を代えれば状態は上向くのだろうか。試合内容は良いけど勝てないということもある。クラブのフロントを代えないと根本の解決はないかもしれない。

シーズン途中の監督交代は劇薬としての効果はありえそうである。自信を失っていたチームが開き直るきっかけになるかもしれない。しかし、クラブには哲学がある。ころころ監督を代えて、果たして哲学が貫き通せるのだろうか。

2012年のJリーグシーズン終了後、ジェフ千葉の木山監督の退任が正式発表されて千葉市長がつぶやいたツイートはかなりの数がRTされ、サッカークラスターでも話題となった。

海外リーグでは監督交代についてどのような考えがあるのか

海外では監督交代の効果について先行研究があるようである。例えば、『勝利を求めず勝利する ― 欧州サッカークラブに学ぶ43の行動哲学』(筆者のレビューはこちら)には監督交代についての言及がある。

「監督の交代はうまくいくものではない」

オランダの経済学者ルート・クーリングはこう言っている。彼は経営トップの交代が企業の成功に与える影響を解明するために、サッカーのオランダリーグを調査した。

すると、1993年から1999年までに28回の監督交代が行われたが、結果として監督交代がいい影響を与えたことを裏づけるものはまったくなかった。クーニングはこう結論づけた。
「ファンとメディアの圧力のほうが、監督交代の効果の見込みより重要な役割を果たしている」

2003年、この結果に対してミュンスター大学の二人の研究者ベルント・シュトラウスとアレクサンドラ・ティッペンハウアーが賛意を表した。彼らは1963年から1998年のデータをもとに、監督交代の効果について検証した。

調査は、監督交代前の12試合と後の12試合を比較するという方法で行われた。その結果、短期的には成績が上向きになることが多かったが、それだけにその後の急降下が厳しいことがわかった。これに対し順調に推移して落ち込むことがあまりなかったのが、「監督を交代させない」チームだった。

「リーグ戦における監督交代」を研究したマティアス・キルタウも同様の結論に達した。新監督は、10戦目までは3ポイント多く獲得するものの、それから効果は消えてしまう。さらに、その短期的な成功も新監督の手腕によるものではなく、監督交代がチームを刺激する「劇薬」として瞬間的に効果を発揮したものだった。(P.54-56から引用)

また、イングランド・プレミアリーグのチェルシーが頻繁に監督が交代するので監督ごとの成績を追跡調査したレポート(英語:What is the impact of changing football manager?)も存在する。このレポートにおいても、上記の引用と同様に一時的にポイントが上向くことはあっても長期的に見れば投資に見合う効果はないと結論づけている。ただし、いずれもシーズン途中の監督交代ではなくシーズン間の交代もデータに含めている。

Jリーグでは同様の研究が見つからないので、自ら分析してみる

シーズンの残り試合、残留可能性、チーム目標とその達成度、サポーターから支持されているか、フロントとの関係、選手との関係。監督の交代or続投をめぐる変数はあまりに多い。

しかしJリーグも開幕して20年。これまでのデータを用いて何か分かることがあるはずである。過去のシーズンも含めてJリーグの監督交代の効果を定量的に調査しているレポートは見つからなかったので、自分で調査することにした。

検証は、シーズン途中の解任のケースで、解任前の5試合~10試合程度の成績と新監督就任後の5試合~15試合程度の成績を比較するやり方とする。

対象のデータは34件発見できた。

  • 93〜2012までの20年間のJ1/J2でシーズン途中で監督交代があったのは43件
  • うち、2ステージ制を敷いていた時期における1stシーズンと2ndシーズンの間の監督交代は除く(94年の清水、94年の鹿島)
  • 開幕5試合未満で解任されたケースは除く(04年C大阪、06年横浜FC、08年浦和、12年G大阪、12年横浜FC)
  • シーズン残り試合が5試合未満で解任されたケースは除く(12年神戸、12年福岡)

また、条件をそろえるために過去採用していた延長戦に突入した試合に関しては全て勝ち点1で計算している。

[データ収集のための参考文献]

シーズン途中の監督交代の効果はあるのか [単純平均の比較]

解任前の5試合と10試合、新監督就任後の5試合、10試合、15試合経過後の平均獲得勝ち点を計算したのが以下の表である。

2013point_before_after.jpg

集計して、衝撃。解任前の勝ち点があまりに少なすぎる・・。だから解任されたってことなのだけど。
J1が18チーム制(年間34試合)になってからは、J1残留ラインは大体勝ち点40である。つまり、1試合で平均1.18ポイントくらいは獲得しなければならない。しかし解任前5試合では平均0.888ポイント。解任したくなるのも心情的には理解できる。

新監督就任後のデータを見ると、解任前より獲得勝ち点は増えている。解任前は上述の1.18ポイントラインを下回っていたのに、新監督就任後は1.18ポイントを上回っている。このラインは非常に重要である。
また、先程引用した文献のデータとは異なり、交代後10試合よりも、交代後15試合の方が勝ち点が伸びている。短期的ということでもなさそうである。

まだ20年、34件のデータしかないJリーグだが、単純集計では勝ち点が伸び、監督交代の効果があると考えることができそうだ。

シーズン途中の監督交代の効果はあるのか [単回帰分析]

次に、もう少し統計的な技術(といってもにわかだが)を用いて分析してみることにする。まずは散布図を用いて解任前後の獲得勝ち点を比べてみる。

2013jdata10_10.jpg

横軸は解任前の10試合の獲得勝ち点、縦軸は新監督就任後の10試合の獲得勝ち点である。

こうして見ると、単純集計による平均の比較とはまた違った見方ができる。より右下にプロットされているチームほど監督交代がうまくいっていないチーム、より左上にプロットされているチームほど監督交代がうまくいっているチームとなる。

特筆すべきは左上の05年の大分トリニータ。シャムスカ・マジックと呼ばれた奇跡の残留劇を思い出す。見事なまでの劇的な改善である。解任前の10試合で3ポイントだったのが新監督就任後の10試合で20ポイント。そして右下の06年の千葉はある意味かわいそう。日本代表にオシムさんを引きぬかれたときである。オシムさんのときは10試合で19ポイントだったのが、交代後10試合で12ポイントまで落ち込んでいる。

次に、統計的に有意な結果が得られないかとデータを分析したところ、解任前10試合と新監督就任後10試合を変数としたケースでは単回帰レベルで有意な結果(5%水準)が得られた。決定係数が0.176と低めだがデータが34件しかないので仕方ない。これからのJリーグの歴史に期待。

統計ソフトRによる単回帰分析の結果を載せておく。

r_call_statement.jpg


解任前後における勝ち点の計算式は以下の通り。

新監督就任後10試合で得られる勝ち点 = 0.6254 × 解任前10試合で得た勝ち点 + 6.1263

つまり、解任前10試合における勝ち点が10ポイントだった場合は、新監督就任後の10試合で12.38ポイント獲得できるという意味である。

0.6254 * 10 + 6.1263 = 12.38

交代後に獲得勝ち点が増えていることが分かる。
1試合あたり1.0ポイントのチームが交代後に1.238ポイントになるのは大きな意味がある。J1残留ラインは1試合あたり1.18ポイントなので、監督交代すれば残留に近づく可能性が高くなるということである。

先程の散布図に単回帰の直線を加えた図は以下のとおり。

2013jdata10_10abline.jpg

データから見れば、Jリーグにおけるシーズン途中の監督交代は効果がある

ということになる。同じシーズンの中では勝ち点の上積みが期待できる。
ただし、そもそもコロコロ監督を代えて良いのか、それで地域に愛される骨太のチームが作れるかと言えばそれはまた別の話。今回はデータを単純にいじっただけなので。

どうしても今シーズンまずは残留を目指し、新シーズンについては残留してから考える(などということはそもそもあってはならないが)、そういうケースには効果があるといって差し支えない結果が得られた。

さて、これを書いている2013シーズンのJ1で未勝利の大分、必ずしも好調とはいえない川崎、湘南、磐田あたりはどうなるか。身勝手なことを言えば、毎年データが増えてほしいのでどこかは監督を交代してくれるとうれしいのだが。不謹慎ですみません。



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