湘南ベルマーレ復活劇の舞台裏。

かつては中田英寿、ベッチーニョ、野口、奈良橋と有名選手をそろえ「ベルマーレ旋風」とまで騒がれたベルマーレ。ところがベルマーレは1999年に財政難でクラブ存続の危機に直面する。現在もアビスパ福岡やザスパクサツ群馬など債務超過でクラブ経営の危機に立たされているクラブは存在している(参考:クラブライセンス制度(財務基準)の実効年度開始 危ないクラブまとめ)が、ベルマーレは真っ先にこの危機に陥ったクラブでもある(横浜フリューゲルス除く)。

その危機をいかに乗り切ったのか。いや、まだ乗り切ったとは言えないかもしれないが、財務を見る限りは安泰に見えるベルマーレは、どのようにこの財務基盤を築いたのか。その奮闘記が記されているのが本書である。

前半は危機に陥った原因の分析

ベルマーレ固有の話もあるが、どちらかというと行政やJリーグ特有の移籍金制度の撤廃などに関する注文が多い。

前者の行政に関しては非常に気持ちはわかる。真壁社長もこのように語っている。

日本では、学校体育は文部科学省、グラウンドや公園など施設の管理は国土交通省、健康や高齢者のスポーツに関することなら厚生労働省、馬に関するスポーツなら農林水産省・・・といったように、ジャンルによって担当省庁が異なっている。

スポーツに関する監督省庁が分散してしまっているので、一つの大会やイベントを開催するときでも、複数の省庁に確認に走り回らざるをえないこともある。俗に言うタテ割り行政の弊害だ。

これが、わが国のスポーツ振興を遅らせている一因ではないだろうか。スポーツを一元的に掌握する省庁があれば、コトはスムーズに進むはずだ。(P.70から引用)

※幸い、2013年11月に「早ければ2014年度中」にスポーツ庁を文部科学省の下部組織の外局として設置する方針が固められてる。

ただ、後者の移籍金に関しては長期的に見ればローカルルールの撤廃は避けられないことであろうと思う。真壁社長は育成に力を入れても移籍金が撤廃されればクラブ経営が立ち行かなくなると言っているが、それは言い過ぎであると感じている。

一方、若手を育てたクラブの保護を目的に、移籍金の代わりとして「トレーニングコンペンセーション(TC)制度」も導入された。(P.104から引用)

と真壁社長自ら言及しているように、TC制度の存在がある。TC制度とは、23歳以下の選手が移籍する場合、その選手が12歳から21歳までに在籍したクラブに対し、育成金としてTC費を支払うことを義務付ける制度である。

日本ではFIFA準拠のTC制度に加え、ローカルルールの「トレーニング費用」という制度も存在する。TC制度が「プロ選手がプロ選手として移籍」する際に適用されるのに対し、トレーニング費用は「アマチュア選手がプロ選手として移籍」する際に適用される。これにより、例えばベルマーレ下部組織で育ったアマチュア選手が他のプロクラブと契約してもベルマーレにはお金が入り込むという仕組みである。

TC費に関しては小澤一郎氏の優秀な若手がJリーグに来なくなる? TC請求権とは何か?が参考になる。

これらのTCに関する話を聞いて「育成に意味がない」という人はいないだろう。もちろん真壁社長もこの制度は知っているに決まっている。ところが本書ではTCに関することの言及はかなり少なく、移籍金制度のローカルルール撤廃に関することだけが重点的に書かれている。

当然、いくらTCが整備されようと移籍金制度のローカルルールが撤廃されてはトントンにはならないということなのだろうが、その辺りの言及がないので「愚痴」のように聞こえてしまう。

このあたりの移籍に関する話は同じく小澤一郎氏の『サッカー選手の正しい売り方』(筆者のレビュー)に詳しい。

後半は総合型クラブへの転身と躍進のストーリー

一方で後半はベルマーレの巻き返しのストーリーで読後感が良い。

いろいろな経緯を経て、真壁社長はNPO法人を作り、総合型地域スポーツクラブとして生き残りを図ることを決意する。日本の行政は株式会社には優しくないが何故かNPOには優しいという一面がある。これを利用して施設を安く借りたり、行政の後押しを受けたりすることができる。

もちろん実際の経営は綱渡りの連続で大変なことが多々あったことと思うが、総合型に舵を切ってからはサッカーに限らず湘南らしくビーチバレーチームの発足、トライアスロン大会の実現、ソフトボール、フットサル、競輪などまさに総合と呼ぶにふさわしいコラボレーションが実現している。その全てが「ベルマーレ」なのである。

このように総合型とすることで地域の受け皿になることができるだけでなく、強化がうまくいかないときでも事業でクラブ経営を安定させることができる。

川崎フロンターレプロモーション部の天野春果氏の『僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ』(筆者のレビュー)でもコラボレーション企画が多数紹介されているが、湘南ベルマーレもこれに引けをとらない。

2014年2月には湘南リスペクト企画としてアーティストの湘南乃風とコラボして限定グッズの販売なども行っている。この手の企画はお互いのファン層を取り込めるので非常に良いと思う。

挑戦はまだまだ続く

本書の最後は、ここまで総合型スポーツクラブを推し進めてきた真壁社長だからこそ説得力のある語りで締めくくられている。

ベルマーレにおける活動も、サッカーの試合にしても、ビーチバレーの大会にしても、小学校体育巡回授業にしても、そこに集まる人が増えて「いいね」となれば、自然に広がっていく。

人が集まるいい実例を増やせば、不満のあった人も黙る。「ニーズがあるから」と、口で簡単に言うよりも、よほど説得力がある手法だ。

だから、まず、実例をつくろう。

そして、やがて、僕らがその「いい実例」そのものになれればうれしい。

スポーツを通じて、ベルマーレを介して、大切な何かを感じ取れるような、地域になくてはならない存在だと言われるような実例に。

そのためのベルマーレの挑戦は、まだまだ続く。(P.253から引用)

クラブライセンス制度によりライセンス剥奪の危機にあるクラブこそ、真摯に地域の声に耳を傾け、湘南ベルマーレの実例を参考にクラブ経営を進めるべきであると思う。Jリーグ100年構想にも「サッカーに限らず、あなたがやりたい競技を楽しめるスポーツクラブをつくること。」とある。これを体現している湘南ベルマーレの奮闘が記されたオススメの一冊である。



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