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[書評] 眼・術・戦


遠藤保仁の戦術眼をロングインタビューから紐解く。

本書は日本サッカー史上最高のMFとの名声を確かなものにしつつある遠藤保仁のサッカーに対する考え方を「眼」「術」「戦」と視点を分けて紹介するものである。「眼」は状況の把握、「術」は実行、「戦」は大局的に捉えた戦い方を示している。

ヤットからどんな言葉が出てくるか、それだけが楽しみで読み続けられる

正直なところ、「眼」「術」「戦」に視点を分けていることには少し無理があるように感じられる。状況を把握することとそれを実行すること、戦い方などはそもそも切り離して考えることができるものではない。もちろん、それでも文字に起こすときは一時的に何らかの切り口で平面に捉えて抽象化し、それをもう一度具体のレベルに引き上げるような作業が必要だ。その過程で、「眼」を自動車の運転における目視をメタファーにした興味深い表現も発見できた。しかしやはり、「術」における実行の表現で状況把握のシチュエーションを出さざるを得なくなったり、無理も生じている。切り口を排他的であるかのような書き方をしているので、無理が余計に目立つ。

なのだが、それもご愛嬌。実際のところ、ヤットがどんな言葉を発するのか、それだけに興味を絞ってもぐんぐん読み進められる。いくつか紹介しておきたい。

ミドルを打たないことにはヤットなりの理由がある

シュートを遠目からでも打つべきなのか、さらに得点の可能性が高まるチャンスメイクにチャレンジすべきなのか。得点力不足が騒がれれば「もっとシュートを打て」との論調が高まり、崩しきった得点が生まれれば「アタッキングサードの攻略ができた試合だった」などと言われる。正解がない、肴にするのに適した問いである。

ヤットはこの問いに対し明確な回答を用意している。「打たない」である。

「見ていて、打てよという気持ちはわかります。何で打たないの?と見ている人は思うでしょうね。でも、25メートルぐらいの距離から狙って、だいたい10回打っても入るのは1、2回でしょう。その確率でもいいほうだと思いますよ。ゲーム中は狙えるコースも限定されていますから、GKにとってはコースが読めますからね」
(中略)
「パワーのある外国人なんかは、伸びのあるシュートが打てるので遠めから狙いたがるし、それはそれでいいと思うんですけど、GKの予想を外してしまえば、そんなに強いシュートでなくても入ります。そうなるとボックスの中からシュートしたほうが、ずっと入る確率は高い。ミドルやロングを狙うよりは、相手の守備を崩してペナルティエリアの中から打ったほうがいいと思うんですよ」(P.76-77から引用)

若いころはもっとズバズバ打っていたような記憶があるのでどこかでプレースタイルを変えたということかもしれない。個人的には先日のW杯アジア最終予選のヨルダン戦を現地観戦して感じたように、もう少し「打って」ほしいのだけど。

守備は同数でも守りきれると考えている

サッカーは局所的な数的優位をどのように作り出すかが重要であり、その紆余曲折を争うゲームでもある。一般的には相手FWが2人いればこちらは3人以上はいた方がリスクヘッジとして重要であると考えられている。相手も同じように最終ラインは1人余らせるため中盤では同数となり、狭い地域で前を向いて数的優位に立つためにダイレクト、ドリブル、連動、間で受ける、ポストプレー、スプリント、などの戦い方が生まれてくる。

ヤットの考えは、これを前提から覆すものである。

まず第一に、ヤットはボールを「奪われない」と考えている。そのため、攻撃時まで最終ラインに1枚余らせる必要はなく、その分攻撃的なポジションを取ったほうが良いとのこと。

第二に、仮にボールを奪われても数的同数であれば守りきれる、と考えている。これは多くのDFや監督からしたら頭がイカれていると思われても仕方なさそうな思考である。

では、なぜ遠藤は「同数ならいい」と考えているのか。
「人間、同数のほうが集中力が出るんです。例えば、5対5だとマークがズレやすい。1対1なら絶対ズレない。ズレたら負けですからね。2対2や3対3なら、1人が責任を持って1人についていきます。かえって守備がはっきりして守りやすいので、同数なら全然構わないと思ってます」(P.104から引用)

こればかりはチームの方針があるのでヤットだけの判断では実現できないかもしれないが、このような考え方の選手がいるだけでびっくりである。DF出身である僕の個人的な意見では、1人余っていたほうが前でカットするようなポジションを取りやすいのでトランジションの速い攻撃的な守備ができてよいと思っているのだが・・。天才が考えていることは異次元である。

プレースタイルが似ているの人物として3名をピックアップ

本人に自分の後継者について聞くのは野暮だが、これはサッカーファンなら誰もが気になり、そしてやきもきしている領域のデリケートな話である。現在の日本代表では、誰よりも代えがきかないのが遠藤保仁その人だからである。この話題に対してヤット本人が「似たタイプ」ということで3名の名前を挙げている。

どうなんですかね、あんまり考えたこともないんですけど、扇原(貴宏)とか柴崎(岳)、ちょっと前だと(柴崎)晃誠あたりが自分と似たタイプかなと思いますけど・・・・いま聞かれてもすぐには思い浮かばないです」(P.178から引用)

名前だけが一人歩きするのは避けなければならないし、後継者という積極的な表現ではなくあくまで「似たタイプ」である。それでも、なんとなく注目してしまうのがファン心理。

ただし一方でヤットは「結構経験も大事」とも言っており、テクニックなどだけでは計りきれない部分もあるという認識である。代表でヤットが円熟味を増せば増すほど後継者が経験を積む機会が奪われているというジレンマ。とりあえずは、2014年のレギュラーはヤットであるという前提で進み、試せる試合であれば後半のどこかで代わりの選手を使ってみるというやり方しかなさそうである。

口語体で文量も少なく、さらっと読める

遠藤本は他にもあるが、遠藤の生のインタビューを西部謙司氏が解釈して分かりやすく伝えていくという構成のおかげもあって非常に読みやすい内容となっている。文量も少なく、ページ数の割にすぐに読み終わる。難しい表現なども一切ないので、気楽に遠藤保仁の考えを知りたいと考えている人にオススメできる。

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2013年3月26日ヨルダン対日本の試合にて筆者撮影。ヤットがPKを蹴る直前。PKはGKに止められ、日本は1-2で敗戦、W杯出場決定は持ち越しとなった。



tags ヤット, 後継者, 眼・術・戦, 西部謙司, 遠藤保仁


個性豊かなライターたちが異端の点取り屋たちを様々な角度から掘り下げる。

サッカー小僧は隔月で出版されるムック本で、謳い文句は以下の通りである。

『読めば「見る目」が上がる』をコンセプトに、サッカー界のコアなテーマを取り上げ、様々な視点から真髄に迫る!

第5号である本誌はファイナルサードにおいて違いを見せる選手たちを特集している。特集タイトルは「ファイナルサードの奇術師たち」である。ちなみにファイナルサードとは「得点を奪うための最終局面」という意味でアタッキングサードと同義だそうだ。

メッシ、クリスティアーノ・ロナウド、ファルカオ、ネイマール、香川真司、ダビド・シルバらにスポットを当て、彼らのプレースタイル、メンタリティ、活かし方などを紹介している。10名以上の個性豊かなライターが執筆しているため内容も温度感もバラエティに富んでいる。

個人的には、もっと「違いを生み出すメカニズム」に迫る内容を読みたかった。表紙には「最終局面で"違い"を見せ、組織に"バグ"を起こす選手とは?」と大きく書かれており、そうであればバグの起こし方がポイントになると感じるのだが、そういったプレー内容には一切触れずにメンタリティやチーム事情などに終始している記事も多い。

そんな中で、「バグの起こし方」にポイントを絞って寄稿しているのが河治良幸氏と西部謙司氏だ。

河治良幸氏はファルカオがペナルティエリアで力を発揮している視点を3つに分け、それぞれ図を用いてファルカオの動き方とともに紹介している。その2つ目の視点として紹介している「いち早くボールの到達点に入り込む」というものは、当たり前のように聞こえるが避けて通れないストライカーの条件だと個人的にも考えている。クリスティアーノ・ロナウドの得点も単純なセンタリングに「いち早く到達したから」というパターンが多い。日本では岡崎慎司が秀でている能力で、「戦術」という括りではないのでライターからは文章にしにくいが重要なプレーである。

西部謙司氏は香川とマンチェスター・ユナイテッドの担当で、香川がチームで活きるヒントとしてバルセロナのプレースタイルを紹介している。

現代のサッカーは、ゾーンディフェンスが主流だ。香川のように「間で受ける」ことに長けた選手は。ゾーンを破るために有効な武器になる。ユナイテッドが香川を獲得した理由の1つは間違いなくそれだ。
(中略)
90年代に普及していったゾーンディフェンスだが、近年はその"天敵"ともいえるチームが現れた。バルセロナと、バルサの選手を軸としたスペイン代表だ。彼らはゾーンの隙間にパスをつなぎ、ゾーンが収縮して網をかける前にボールを逃してしまう。収縮といっても、まったく同時には行われない。1ヶ所が縮まれば、他の場所は隙間が大きくなる。
(中略)
時間とスペースを奪うはずのゾーンディフェンスは、それを忠実にやろうとすればするほど、逆にバルサやスペインの選手にスペースを与えてしまうパラドックスに陥ってしまった。(P.58-59から引用)

最後はメッシがフィニッシュすることが多いバルセロナだが、メッシが単独でバグを起こしているわけではなくチームとして相手のディフェンスを混乱に陥れるメカニズムを内包しており、それがことさらメッシの個人能力を際立たせているというわけである。このあたりのゾーンの壊し方の言説は『バルセロナが最強なのは必然である グアルディオラが受け継いだ戦術フィロソフィー』と同じで個人的にも納得できる。また、西部謙司氏はP.176からの「バルセロナに見るファイナルサードの崩し方」も担当しており、メッシを使いつつチームで崩すパターンを紹介している。

香川もチームとして活かすような形にしないと縦ゴリゴリとカウンター中心のサッカーの中ではなかなか活躍が難しそうで見ていて歯がゆい。特にウェルベック・・。リターンを香川に返して・・と言いたいが、それでもウェルベックは実際香川よりも点を取っているし、なかなか難しいところだ。

欲を言えば、ファイナルサードでバグを発生させるための所作として『バルセロナが最強なのは必然である グアルディオラが受け継いだ戦術フィロソフィー』で言及されている以上の解説やレトリックを期待したからこそ本誌の特集タイトルを見て購入したのだが、そこまでは望めないようだ。

特集タイトルだけでなく内容にもエッジをきかせ、是非ともNumberに対抗してほしい。次号は4月25日発売で特集タイトルは『監督論 指揮官とは?』を予定しているようだ。期待を込めて、購入する。



tags アタッキングサード, サッカー小僧, 河治良幸, 西部謙司

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プロフィール

profile_yohei22 yohei22です。背番号22番が好きです。日本代表でいえば中澤佑二から吉田麻也の系譜。僕自身も学生時代はCBでした。 サッカーやフットサルをプレーする傍ら、ゆるく現地観戦も。W杯はフランスから連続現地観戦。アーセナルファン。
サッカー書籍の紹介やコラム、海外現地観戦情報をお届けします。

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