城福浩監督の情熱と論理が詰まった監督目線のリアルな思考法。

本書はヴァンフォーレ甲府の監督である城福浩氏が「監督とは一体どのようなことを考えているのか」について持論を展開したものである。チーム編成、マネジメント、采配、戦術、システム、育成と話題は多岐に渡り、監督の思考がひと通り理解できる。

本書が特に優れていると感じる点は2つある。

1つ目は、現役の監督による出版であるという点である。あとがきに著者自身が「私の知る限り、日本人監督で現場に立ちながらサッカー本を出した方はいません」と記している。滅多にお目にかかることのできないリアルな目線と具体的な苦労話などにあふれており臨場感がある。

2つ目は、本書がいわゆる大所高所からの評論ではなく、城福浩氏自身がどのように考えているのか、そしてその根拠はなぜかということについて具体的な事例とともに分かりやすく書かれている点だ。かといって持論だけを紹介しているわけではなく、監督の仕事として網羅すべき内容について紹介しつつ各項目について考えを書いているので漏れはなく読後感も良い。

筆者は城福浩氏の有料メルマガ城福浩の『今魅せる!城福ノート』も購読していた(現在は休刊扱い)が、本書もあわせ感じたことは氏の真面目で実直な人柄である。決して誰かを批判するようなことは書かない。これはメルマガからの引用であるが、2011年8月31日配信の31号で以下のように述べている。

どうしても言えないもの(それが最もコアな部分であることが多いのですが)を割愛してます。
私は今はいろいろ書くという作業が多いですが、常に現場に戻った時の自分の立場も考えているものですから、現場仲間を窮地に追いやる可能性のあることは書けないのです。

なので、本書にも「裏話」に相当するような箇所はほとんどなく、FC東京時代の長友や今野についてチーム編成時の舞台裏がわずかに紹介されている程度だ。

また、自分の考えを書くときは必ず自分なりの根拠を示しており、そこにも真面目さが伺える。城福浩氏はどのチームにおいてもポゼッションを戦術の中心に据えており、その理由を以下のように記している。

私はこれまで指揮を執ったどのチームでもポゼッションサッカーを掲げてきました。(強調は著者によるもの)
(中略)
それは、パスサッカーが自分の好みであり、攻撃が好きだから、ということももちろんあります。しかし、何よりも選手に「楽しい」と感じてほしいと思っているからです。
選手というのは、プレーしていて楽しくなかったり、上手くなっている実感が湧かなかったりすると、なかなか向上心を持てないものです。さらに、選手が楽しんでプレーしていなければ、見ているファンやサポーターの方々が楽しめるはずがありません。
では、選手にとっての「楽しみ」とは一体何でしょうか。私は「ボールにたくさん触ること」だと考えています。(P.118より引用)

もちろん、戦術面におけるポゼッションサッカーの特徴を考えた上での上記の発言である。

こういった肝の座ったブレないスタンダードが熱い言葉とともにいくつも紹介されている。以下はその一例である。

  • 試合の翌日に最も優先的に考えるのは試合に出なかった選手たちのこと
  • 木曜日は週のトレーニングのなかで選手たちに対戦相手を最も意識させる日
  • 自分たちの試合の映像や対戦相手のスカウティングの映像は12分にまとめる
  • システムありきの考え方に否定的な立場を取っている
  • 「この指導者は子どもから判断力を奪っていないだろうか」と、親が見極めることも大事

現場の人間の考えほど帰納的なインプットとして役立つものはない。こちらの考えと対峙させる練習にもなるし、自分の浅い考えが一蹴される痛痒くそして清々しい経験も現場からの重い一撃があればこそである。

しかし、現役監督の考えが根拠とともに詳しく聞ける機会はそう多くない。通常、現役監督という立場の人間は記者会見でも記者の取材に対しても本質的な部分や具体論については話さない。本書は稀有な存在として、また今後の「現役監督からの出版」という道筋を開いた存在として、語り継がれる一冊となるだろう。



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