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スタジアム観戦の愉しさを伝えるストーリーテリング。

本書は、著者である中村慎太郎氏が2013年10月5日に初めてJリーグを観戦してから3ヶ月間の間に起こったスタジアム観戦やファン同士、サポーター同士の交流を綴った冒険譚である。

ことの始まりは中村氏がJリーグ初観戦の感想を「Jリーグを初観戦した結果、思わぬことになった」というタイトルでブログに書いたことによる。

本書にもあるように、このエントリーはサポーター界隈で大変な話題となった。

その記事が大変な反響を呼び、アクセス数は2日で10万を越えた。そして、Jリーグクラブのサポーターという人達が突然たくさん現れて、メール、Twitter、Facebookなどを通じてぼくに話しかけてきた。(P.25から引用)

それからあれよあれよという間に中村氏はJリーグという物語の渦に巻き込まれ、あるいは自ら渦の中に飛び込んでいくこととなる。

ストーリーとしての完成度の高さ

本書を読んで感じたことは「Jリーグへ誘う至高のストーリーテリングである」ということ。

ストーリーは共感を生み出すための効果的なメソッドで、ビジネスの世界でも最近特に注目されている。ビジネスにおける競争戦略にストーリーの視点を持ち込んだ楠木建氏の『ストーリーとしての競争戦略』から引用して、本書『サポーターをめぐる冒険』を斬りとってみたい。

ストーリーであることの要点はいくつかあるが、『サポーターをめぐる冒険』がストーリーとして完成度が高い点を3点挙げたい。

1.時系列で書かれていること

『ストーリーとしての競争戦略』には次のように書かれている。

戦略の構成要素そのものよりも、そのつながりに注目しているという点で、ストーリーの戦略論はビジネスモデルの戦略論と似ています。ただし、大きな違いが一つあります。それは、ビジネスモデルが戦略の構成要素の空間的な配置形態に焦点を合わせているのに対して、戦略ストーリーは打ち手の時間的展開に注目している、ということです。(P.451から引用)

ストーリーとは「違い」を語るものではなく「つながり」を語るもの。そのため、時系列に徐々につながりが育まれていく様子が語られなくてはわかりにくいものとなってしまう。『サポーターをめぐる冒険』は見事に時系列に書かれており、中村氏が徐々に選手の名前やチャントを覚えていく様子が克明に描かれている。


2.短く言えることを長く言っていること

ビジネスの世界に身をおくと「要点は何?」「箇条書きで分かりやすく書いて」「結論から言って」など、前後のつながりを無視した「静止画」だけを求められる。ここから生まれるのはジャッジメンタルな姿勢であり、「あれは間違っている」「もっとこう言えばいいのに」「何言ってるかわからない」という思いがどうしても脳裏をよぎってしまう。

しかし、ストーリーとは「静止画」ではなく「動画」である。要点で語ることはできないし、つながりを大切にしているため、どうしても話が長くなる。

『ストーリーとしての競争戦略』には次のように書かれている。

従来の戦略論には「動画」の視点が希薄でした。戦略のあるべき姿が動画であるにもかかわらず、その論理を捉えるはずの戦略「論」はやたらと静止画的な話に偏向していたように思います。
(中略)
特定の文脈に依存した因果論理のシンセシス(筆者注:綜合)である以上、戦略はワンフレーズでは語れません。ある程度「長い話」にならざるをえません。(P.44から引用)

だから、『サポーターをめぐる冒険』の愉しさは筆者もうまく伝えることができない。短く言えることを長く言うことに価値があるので、要点だけを伝えても真価は伝わらない。とにかく読んでみてほしいというのが本音である。


3.どこにでもいるサポーターを扱ったこと

インパクトのある内容にしたり、物語「性」を大事にしようとすると、どうしても特徴的なシーンや目立つ人に焦点をあてざるを得ない。しかし、こういった尖った焦点は「すごい」「憧れ」といった印象を残すものの、ストーリーが本来持つ力である「共感」には向いていない。なぜなら、尖った焦点では多くの人はそこに自分を照らし合わせることができないからである。

『ストーリーとしての競争戦略』には次のように書かれている。

独自性を追求するあまり、あからさまに「尖った」顧客をターゲットにしてしまうと、筋の良いストーリーはつくれません。どんなコンセプトでも、それが心に響く顧客は世の中のどこかに必ずいるものです。しかし、それがあまりにマニアックであれば、ごく特殊なニッチに押し込められてしまいます。
(中略)
コンセプトを固めるときは、あくまでも「普通の人々」を念頭に置き、普通の人々の「本性」を直視することが大切です。(P.436から引用)

『サポーターをめぐる冒険』が世に出たとき、多くのサポーターが口にした言葉が「私がいる!」であった。この感覚がストーリーとしての臨場感につながっているのである。

素晴らしいストーリーは共感を呼び起こす

『サポーターをめぐる冒険』はまさに等身大のストーリーであり、市井のサポーターのみならずJリーグをまだ観に行ったことのない人も「自分ごと」として捉えられるように仕上がっている。

「自分ごと」とはビジネス用語では当事者意識のことであるが、この感覚や意識を持つことができるかどうかはビジネスにおいても趣味においても大切なことである。博報堂大学による『「自分ごと」だと人は育つ』では、「自分ごと」の状態について次のように記している。

「自分ごと」とは、いわゆる「主体性」です。通常「自分ごと」と聞くと、この言葉を思い浮かべる人が多いでしょう。打ち合わせや資料作成でも、常に自分の頭で考えて発言し、人に指示されなくとも、やるべきことを見つけて前に進めるための行動を取るという状態です。(P.53-54から引用)

人を行動に掻き立てることはなかなかに難易度が高いことであるが、『サポーターをめぐる冒険』はストーリーを通じて「自分ごと」に捉えてもらうことで主体性を引き出すことに寄与している。ストーリーテリングは創発型のアプローチで主体性を引き出すことを目的としている確立されたメソッドであるが、本を通じてそれができているという点がすばらしい。

また、別の言葉を使えば「自分ごと」に捉えるということは、ある対象について共感や好意を抱いている状態とも言える。

横浜Fマリノスの嘉悦社長もインタビューで言っているように、スタジアム来場者を増やすためには「認知→理解→好意→購入意欲→購入→リピート」という流れの中の歩留まりをよくすることが重要である。「自分ごと」に捉えることは、すでに3段階目の「好意」に到達していることを意味し、Jリーグへ誘うという意味で本書がもたらした貢献は非常に大きい。

特定のクラブを好きになるということ

イベントとして、Jリーグ観戦の等身大の物語を共有するストーリーテリングのイベントなど開催できれば面白いかもしれない。もちろん、Jリーグ観戦未体験者や、行ったことはあるけど数年に1回程度という人が来なければ仕方ないので集客が難しいけれど。

Jリーグに誘うという意味では、ストーリーテリングは傾聴と共感のメソッドだから向いていると思う。

前回のエントリーが特定のJクラブサポーターになれないボクなんていう盛り下がる戯言を書いておいてなんだけど、やっぱり特定のクラブを応援するのは良いことだと思う。中村氏もこのように言っていることだし。

サッカーはどちらかのチームに肩入れして「応援者」となる方が楽しめる気もする。(中略)サッカー観戦を楽しもうと思ったら、サポーターになって、物語の登場人物になるのが一番なのかもしれない。(P.164から引用)

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2014年5月3日 浦和レッズVSFC東京@埼玉スタジアム2002にて筆者撮影



tags Jリーグ, サポーターをめぐる冒険, スタジアム観戦, ストーリーテリング, 中村慎太郎, 共感, 自分ごと

2013年度のJクラブの決算が出揃い、Jリーグの公式サイトにも資料がアップされた(一番下のJクラブ個別経営情報開示資料)。

クラブ経営に関してはこれまでも何度かエントリーをあげてきており、今回も新しい情報をもとに経営的に危ないクラブを取り上げていく。

参考エントリー

クラブライセンス制度のおさらい

Jリーグはクラブの経営基盤の強化と安定化のためにクラブライセンス制度を運用しており、基準に抵触するとJクラブライセンスが交付されないなどのペナルティが待っている。

基準は競技に関するものなど5種類にわかれており、その中に財務基準というものがある。

財務基準をクリアするための要件は以下の2点に集約される。

  • 2012年度以降、3期連続で当期純損失(赤字)を計上していないこと
  • 2014年度以降、債務超過に陥らないこと

今般公開された2013年度の決算は当期純損失(赤字)についてチェックする2期目であり、2012年度、2013年度に連続で赤字計上しているクラブはライセンス剥奪のリーチがかかったといえる。

当エントリーでは上記2点の要件に照らしあわせて、基準に抵触しそうな危ないクラブ(J3除く)の決算をまとめて紹介したい。

当期純損失(赤字)計上クラブ

まずは財務基準要件の1つ目、当期純損失について。下の表を見てもらいたい。

2013年度純損失クラブ一覧.jpg

この表は、2013年度の決算で純損失を計上したクラブについて、赤字額の多い順に並べたものである。

J1とJ2の全40クラブのうち、赤字計上は11クラブ。表内の赤いセルは2012年度に続いて2期連続で赤字のクラブを示している。これらのクラブは2014年度、つまり現在進行中のシーズンにおいて赤字を計上するとJクラブライセンス剥奪などのペナルティが待っている。具体的なクラブは、神戸、福岡、名古屋、栃木、群馬、湘南である。

表内の黄色いセルは、2012年度は黒字だったが2013年度に赤字になったクラブ。鳥栖、東京V、G大阪、清水、長崎がここに分類される(長崎は2013年度に新加盟なのでデータなし)。

数値を見ただけで、神戸の赤字額が抜きん出いることが分かる。また、神戸に関しては後述する債務超過額に関しても群を抜いている問題クラブである。

鳥栖も若干気になるところだろう。鳥栖は2012年度に比べて収益が2.5億円増加したが、費用が約7億円増加しており大幅な赤字に陥った。特に人件費が6億円から10億円に1.5倍以上増加しており、チーム成績の向上が経営的には逼迫要因になり得ることが如実に現れた結果となっている。

その他は赤字額が目立つクラブはないが、J2の金欠クラブは1000万円集めるのにも苦労している状態である。実態としてかなり苦しい経営を迫られているクラブもいくつか存在しており、なんとか黒字回復を祈るばかりである。

債務超過クラブ

次に要件の2つ目、債務超過について。債務超過についても表にまとめたのでご覧あれ。

2013年度債務超過クラブ一覧.jpg

債務超過も11クラブ。赤いセルは1つ名の要件である赤字計上とのダブルで抵触しているクラブ、黄色いセルは赤字ではなかったがこれまでの累積によって債務超過のクラブである。

これらを踏まえていくつかのクラブについて個別に状況を詳述する。

神戸 〜 額だけ見れば大問題だが・・

さて、まずは神戸から見てみよう。神戸は2期連続で赤字を計上したばかりでなく、累積損失が16億円を超えている。クラブライセンスを剥奪されないためには、来期は16億円超の黒字を計上することがマストである。普通に考えて、ムリ。いくら今年度からJ1にあがったとはいえ、昨年度3.7億円の赤字クラブが今年度16億円の黒字になるわけがない。どこのクラブも自力では1億円の黒字すら出すことが難しいのJリーグである。途方にくれるしかない・・わけなのだが、個人的には神戸は16億円の黒字に持ってくると考えている。その理由は、次に説明する債務超過額2位の横浜FMのケースで取り上げる。

横浜FM 〜 自力再建は断念し、スポンサーの力で回復へ

これまで継続してJクラブの決算を見てきた人であれば、2013年度の横浜FMの優良決算に目を見張ったことだろう。2012年度は16.7億円あった債務超過が2013年度は6.7億円と10億円も改善されているからである。このペースであれば2014年度に残りの6.7億円の債務超過を改善することはたやすい。なぜ横浜FMはここまでの劇的な回復を遂げることができたのか。

答えは簡単で、日産が通常のスポンサー費に加え、追加で10億円出したからである。正確に言えば、日産がマンチェスター・シティ(マンC)と業務提携し、マンCにスポンサードしたお金の一部をマンCが横浜FMに出資する形を取っている(詳しくはFマリノスから「NISSAN」ロゴが消える日 | 東洋経済ONLINEを参照)。これにより日産はマンCを通じて欧州への広告効果を狙えるし、マンCはアジアでのファン層拡大のための足がかりとすることができる。

もちろん、横浜FMも2012年度までは単体で赤字計上していたのが、2013年度はイーブンにまで回復している。プライマリーバランスが回復しているということは、経営状態がすこぶる悪いわけでもないだろう。この点に関しては嘉悦社長の努力の成果といえる。

ただ、結局10億円レベルの債務超過を自助努力のみで回復するのはほぼ不可能で、大規模なスポンサーに頼らざるを得ないのは間違いない。神戸が大丈夫と先述したのも、楽天という大スポンサーがバックについているからに他ならない。もちろん楽天もお金をドブに捨てることはしないだろうから総合的に楽天の発展に寄与する方法を取ってくるだろうが、16億円くらいは楽天にとって出すことは難しくないと想像できる。

大分、鳥栖、岐阜 〜 それぞれ事情は異なるが問題はない

次に債務超過が多いのは大分、鳥栖、岐阜の順だが、おそらくこれらのクラブは問題なく基準をクリアするだろうと思われる。

大分は過去に自力再建不可能に陥り、Jリーグから支援を受けた過去がある。当時の特別扱いを問題視するきらいもあるが、そのときに十分すぎるほど痛い目を見ており、2013年度は2億円超の黒字を計上するなど安定した経営に向けて努力を続けている。2014シーズンはJ2に降格したため収入面で不安もあるが、帳尻はあわせてくるだろう。

鳥栖も同様、2013年度に大幅な赤字を計上して債務超過に陥ったが、もともと赤字体質のクラブではないため心配はしていない。リーグ成績向上によりチーム力維持のために人件費は増したが、今シーズンも継続して上位をキープしているという事実は今後は追い風にもなるはずである。

岐阜は、Jトラストの藤澤信義氏からの資金援助があるのでまったく問題がない羨ましいクラブである。

栃木、群馬、熊本 〜 実は深刻なのはこれらのクラブ

以降は債務超過額で言えば6000万円程度以下のクラブであり額自体は大きくない。しかしそれはクラブ規模が大きくないから債務超過額も大きくならないだけで、実際にはかなり苦しいクラブばかりである。

栃木、群馬、熊本などは最後の頼みの綱として地元での募金活動を実施したりしている。募金だけで何千万円も集まることはないだろうが、募金人数や額を頼りに「地元から愛されているし必要とされている」という姿勢を示し、地元の企業からお金を引き出すのが目的だろう。仮に2014年度は乗り切ったとしても以降も毎年継続して苦しみが続く。何が何でもJ1に昇格というクラブではない(栃木はそのプロジェクトを一旦あきらめている)ので、今後の生きる道を探らなくてはならないだろう。

福岡も2013年末に5000万円ほど現金が足りないと騒ぎになったりともがき苦しんでいる。そのときは明太子のふくやの支援などもあって乗り切ったが、結局2013年度は赤字計上しており債務超過に陥ってしまった。2800万円と額は多くないが、果たして乗りきれるか。

札幌、北九州 〜 安心はできないが2014年度は乗り切るだろう

札幌は札幌ドームの使用料が高いことが経営の逼迫要因。ただ札幌は経営努力もすばらしい。既に退団となったがレ・コン・ビンを獲得して東南アジアに活路を見出したり、今シーズンは小野伸二を獲得して平日開催のホームゲームで13000人ほど集客したりと、追い詰められているわけでもなさそうだ。

北九州に関しては2013年度は黒字計上しており、1100万円程度の債務超過はなんとかなるだろう。

クラブライセンス制度は何をもたらすか

さて、最後にまとめを。

クラブライセンス制度の導入が決まった当初は横浜FMや神戸、名古屋あたりが危ないと思っていたが、大きなクラブは大きな後ろ盾があり、結局は何とかなってしまう。あおりを食らうには地域の小さなクラブであることが明らかになってきている。

このグラフは2013年度の40クラブの決算について横軸に売上額を、縦軸に当期純利益(損失)額をプロットしたものである(単位:百万円)。

2013年度決算プロット.jpg

特殊な事情の横浜FMを除けば、どこのクラブも売上額こそ差はあれ、利益は似たり寄ったりなのがJリーグなのである。そして財務基準で四苦八苦しているのは売上額の少ないごちゃっとしたグループに属しているクラブということである。

しかし、個人的にはこうやって基準を作ってある程度追い込むのは悪いことではないと思っている。もちろん基準はライセンスを剥奪することや締め付けることが目的ではなく、健全経営のための指針となるべきである。そこは誤ってはならない。

一方で、資金難に陥って地元で募金などをしてみると、やはり地元に愛される以外に生きる道はないということに嫌でも気付かされる。これにいち早く気付いたクラブは、Jリーグ百年構想に立ち返って総合スポーツクラブとして地域に根ざして生き残る道を模索し、ある種の成功を収めているクラブもある。川崎F、湘南、C大阪、札幌、新潟、松本などが良い例だろう。

Jリーグ自体まだ21年目であるし、本当の意味で地域に根ざしてクラブが経営の方針を変え始めてまだ数年。根ざすのはこれからである。一時的には苦しみもある財務基準であるが、将来的な健全なリーグの発展のために必要な改変であるはずだ。願わくば、どのクラブもJクラブライセンスが剥奪されることがありませんように。



tags Jリーグ, クラブライセンス制度, 財務基準

さて、アニュアルな記事をアップデートしておく。

昨年の記事はこちらをどうぞ。
Jリーグにおけるシーズン途中の監督交代に効果はあるのか、過去20年間のデータ検証

ウンチクは昨年の記事に任せるとして、このアニュアルな記事でやりたいことは、シーズン途中に監督交代をして果たして勝ち点は積み上がるのだろうかという定量的な分析である。

2013シーズンにはジュビロ磐田、ロアッソ熊本、大宮アルディージャ、ガイナーレ鳥取、FC岐阜、栃木SCでシーズン途中の監督交代があった(漏れていたら教えてください)。これで1993年からの20年間で統計に使えるデータは40件。この40件を使って単純平均の比較と単回帰分析を実施した結果は以下のとおり。

シーズン途中の監督交代の効果はあるのか [単純平均の比較]

解任前の5試合と10試合、新監督就任後の5試合、10試合、15試合経過後の平均獲得勝ち点を計算したのが以下の表である。

2014point_before_after.jpg

単純平均としては、監督交代後に勝ち点は多く積み上がる結果となっている。安定して残留できるラインを勝ち点40とすれば、1試合あたり1.18ポイントは獲得しなくてはならない。1.18ポイントをひとつのラインとして考えれば、監督交代前は1試合あたり約1ポイントであるのに対し交代後は1.3〜1.4ポイントなので、昨年に引き続き監督交代の効果があると見てよいだろう。

シーズン途中の監督交代の効果はあるのか [単回帰分析]

さて、次に解任前10試合(past10)と新監督就任後の10試合(after10)の勝ち点で単回帰分析を実施してみる。

結論からいえば、昨年のデータと同様に有意水準5%で「監督交代に効果がある」という結果が得られた。

2014jdata10_10abline.jpg

回帰式によれば、新監督就任後10試合の勝ち点は以下のように求めることができる。

新監督就任後10試合の勝ち点 = 0.5731 × 解任前10試合の勝ち点 + 6.4161

この回帰式に当てはめれば、監督解任前10試合で勝ち点10だったクラブは、新監督就任後は12.1を積み上げることができることを示している。つまり1試合あたり1ポイントという残留ラインを下回るペースであったクラブが、交代後は1試合あたり1.21ポイント(34試合で41ポイントの計算)となり、残留ラインは超える計算になる。

勝ち点が増す理由は様々あるだろうが、監督交代をしているクラブはたいてい過去10試合の勝ち点が10程度とかなりの低迷に陥っており、戦術面もさることながら、特に信頼面、自信の面で問題が発生していると考えられる。監督交代という劇薬により気持ちの面でもリフレッシュでき、せめて10試合で13、つまり3勝4分け3敗(これでも低いが・・)くらいには到達できるということなのだろう。そのシーズンを乗り切るという意味においては効果があると言ってよさそうである。

2013データの特徴

大宮と鳥取と栃木の結果が顕著である。

大宮は解任前10試合で勝ち点10だったのに比べ、新監督就任後はなんと勝ち点たったの3である。ベルデニックを解任したのは未だに解せない・・。

鳥取は、小村監督のときも勝ち点は低く10試合で7ポイントだったが、漢・前田浩二監督になってから10試合で3ポイント。大宮と並ぶ低勝ち点である。ちなみに前田浩二監督はアビスパ福岡、ガイナーレ鳥取での監督を通じて26試合連続未勝利中、そして2014シーズンはなでしこリーグで無類の強さを誇っているINAC神戸の監督に就任である。

栃木の松本育夫監督の躍進は予想外だった(失礼!)。ゾーンディフェンスに定評がある松田浩監督が解任前10試合で勝ち点6と低迷したのに対し、松本育夫監督は10試合で23である。松田浩監督は戦術家でシンパも多いが、良いサッカーが必ずしも勝ち点につながるわけではない(パウリーニョの負傷という不運もあった)あたりがサッカーの奥深いところからもしれない。

勝ち点以外にも大事なことはある

クラブのアイデンティティやそこから落とし込まれたプレーモデルを育むことなしに目の前の試合だけを見て監督をコロコロ変えていては、根強いファン獲得のためにはマイナスだろう。名を棄てて実を取るのか。監督に対する考え方はクラブの姿勢が問われているともいえる。

というわけで、来年もこの時期にまた更新する予定。



tags Jリーグ, シーズン途中, 監督交代

シーズン途中の監督交代は効果があるのかないのか。

監督を交代すべきか、それとも辛抱すべきか。勝てない時期が続けば監督交代が叫ばれる。しかし監督を代えれば状態は上向くのだろうか。試合内容は良いけど勝てないということもある。クラブのフロントを代えないと根本の解決はないかもしれない。

シーズン途中の監督交代は劇薬としての効果はありえそうである。自信を失っていたチームが開き直るきっかけになるかもしれない。しかし、クラブには哲学がある。ころころ監督を代えて、果たして哲学が貫き通せるのだろうか。

2012年のJリーグシーズン終了後、ジェフ千葉の木山監督の退任が正式発表されて千葉市長がつぶやいたツイートはかなりの数がRTされ、サッカークラスターでも話題となった。

海外リーグでは監督交代についてどのような考えがあるのか

海外では監督交代の効果について先行研究があるようである。例えば、『勝利を求めず勝利する ― 欧州サッカークラブに学ぶ43の行動哲学』(筆者のレビューはこちら)には監督交代についての言及がある。

「監督の交代はうまくいくものではない」

オランダの経済学者ルート・クーリングはこう言っている。彼は経営トップの交代が企業の成功に与える影響を解明するために、サッカーのオランダリーグを調査した。

すると、1993年から1999年までに28回の監督交代が行われたが、結果として監督交代がいい影響を与えたことを裏づけるものはまったくなかった。クーニングはこう結論づけた。
「ファンとメディアの圧力のほうが、監督交代の効果の見込みより重要な役割を果たしている」

2003年、この結果に対してミュンスター大学の二人の研究者ベルント・シュトラウスとアレクサンドラ・ティッペンハウアーが賛意を表した。彼らは1963年から1998年のデータをもとに、監督交代の効果について検証した。

調査は、監督交代前の12試合と後の12試合を比較するという方法で行われた。その結果、短期的には成績が上向きになることが多かったが、それだけにその後の急降下が厳しいことがわかった。これに対し順調に推移して落ち込むことがあまりなかったのが、「監督を交代させない」チームだった。

「リーグ戦における監督交代」を研究したマティアス・キルタウも同様の結論に達した。新監督は、10戦目までは3ポイント多く獲得するものの、それから効果は消えてしまう。さらに、その短期的な成功も新監督の手腕によるものではなく、監督交代がチームを刺激する「劇薬」として瞬間的に効果を発揮したものだった。(P.54-56から引用)

また、イングランド・プレミアリーグのチェルシーが頻繁に監督が交代するので監督ごとの成績を追跡調査したレポート(英語:What is the impact of changing football manager?)も存在する。このレポートにおいても、上記の引用と同様に一時的にポイントが上向くことはあっても長期的に見れば投資に見合う効果はないと結論づけている。ただし、いずれもシーズン途中の監督交代ではなくシーズン間の交代もデータに含めている。

Jリーグでは同様の研究が見つからないので、自ら分析してみる

シーズンの残り試合、残留可能性、チーム目標とその達成度、サポーターから支持されているか、フロントとの関係、選手との関係。監督の交代or続投をめぐる変数はあまりに多い。

しかしJリーグも開幕して20年。これまでのデータを用いて何か分かることがあるはずである。過去のシーズンも含めてJリーグの監督交代の効果を定量的に調査しているレポートは見つからなかったので、自分で調査することにした。

検証は、シーズン途中の解任のケースで、解任前の5試合~10試合程度の成績と新監督就任後の5試合~15試合程度の成績を比較するやり方とする。

対象のデータは34件発見できた。

  • 93〜2012までの20年間のJ1/J2でシーズン途中で監督交代があったのは43件
  • うち、2ステージ制を敷いていた時期における1stシーズンと2ndシーズンの間の監督交代は除く(94年の清水、94年の鹿島)
  • 開幕5試合未満で解任されたケースは除く(04年C大阪、06年横浜FC、08年浦和、12年G大阪、12年横浜FC)
  • シーズン残り試合が5試合未満で解任されたケースは除く(12年神戸、12年福岡)

また、条件をそろえるために過去採用していた延長戦に突入した試合に関しては全て勝ち点1で計算している。

[データ収集のための参考文献]

シーズン途中の監督交代の効果はあるのか [単純平均の比較]

解任前の5試合と10試合、新監督就任後の5試合、10試合、15試合経過後の平均獲得勝ち点を計算したのが以下の表である。

2013point_before_after.jpg

集計して、衝撃。解任前の勝ち点があまりに少なすぎる・・。だから解任されたってことなのだけど。
J1が18チーム制(年間34試合)になってからは、J1残留ラインは大体勝ち点40である。つまり、1試合で平均1.18ポイントくらいは獲得しなければならない。しかし解任前5試合では平均0.888ポイント。解任したくなるのも心情的には理解できる。

新監督就任後のデータを見ると、解任前より獲得勝ち点は増えている。解任前は上述の1.18ポイントラインを下回っていたのに、新監督就任後は1.18ポイントを上回っている。このラインは非常に重要である。
また、先程引用した文献のデータとは異なり、交代後10試合よりも、交代後15試合の方が勝ち点が伸びている。短期的ということでもなさそうである。

まだ20年、34件のデータしかないJリーグだが、単純集計では勝ち点が伸び、監督交代の効果があると考えることができそうだ。

シーズン途中の監督交代の効果はあるのか [単回帰分析]

次に、もう少し統計的な技術(といってもにわかだが)を用いて分析してみることにする。まずは散布図を用いて解任前後の獲得勝ち点を比べてみる。

2013jdata10_10.jpg

横軸は解任前の10試合の獲得勝ち点、縦軸は新監督就任後の10試合の獲得勝ち点である。

こうして見ると、単純集計による平均の比較とはまた違った見方ができる。より右下にプロットされているチームほど監督交代がうまくいっていないチーム、より左上にプロットされているチームほど監督交代がうまくいっているチームとなる。

特筆すべきは左上の05年の大分トリニータ。シャムスカ・マジックと呼ばれた奇跡の残留劇を思い出す。見事なまでの劇的な改善である。解任前の10試合で3ポイントだったのが新監督就任後の10試合で20ポイント。そして右下の06年の千葉はある意味かわいそう。日本代表にオシムさんを引きぬかれたときである。オシムさんのときは10試合で19ポイントだったのが、交代後10試合で12ポイントまで落ち込んでいる。

次に、統計的に有意な結果が得られないかとデータを分析したところ、解任前10試合と新監督就任後10試合を変数としたケースでは単回帰レベルで有意な結果(5%水準)が得られた。決定係数が0.176と低めだがデータが34件しかないので仕方ない。これからのJリーグの歴史に期待。

統計ソフトRによる単回帰分析の結果を載せておく。

r_call_statement.jpg


解任前後における勝ち点の計算式は以下の通り。

新監督就任後10試合で得られる勝ち点 = 0.6254 × 解任前10試合で得た勝ち点 + 6.1263

つまり、解任前10試合における勝ち点が10ポイントだった場合は、新監督就任後の10試合で12.38ポイント獲得できるという意味である。

0.6254 * 10 + 6.1263 = 12.38

交代後に獲得勝ち点が増えていることが分かる。
1試合あたり1.0ポイントのチームが交代後に1.238ポイントになるのは大きな意味がある。J1残留ラインは1試合あたり1.18ポイントなので、監督交代すれば残留に近づく可能性が高くなるということである。

先程の散布図に単回帰の直線を加えた図は以下のとおり。

2013jdata10_10abline.jpg

データから見れば、Jリーグにおけるシーズン途中の監督交代は効果がある

ということになる。同じシーズンの中では勝ち点の上積みが期待できる。
ただし、そもそもコロコロ監督を代えて良いのか、それで地域に愛される骨太のチームが作れるかと言えばそれはまた別の話。今回はデータを単純にいじっただけなので。

どうしても今シーズンまずは残留を目指し、新シーズンについては残留してから考える(などということはそもそもあってはならないが)、そういうケースには効果があるといって差し支えない結果が得られた。

さて、これを書いている2013シーズンのJ1で未勝利の大分、必ずしも好調とはいえない川崎、湘南、磐田あたりはどうなるか。身勝手なことを言えば、毎年データが増えてほしいのでどこかは監督を交代してくれるとうれしいのだが。不謹慎ですみません。



tags Jリーグ, シーズン途中, 監督交代の効果

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プロフィール

profile_yohei22 yohei22です。背番号22番が好きです。日本代表でいえば中澤佑二から吉田麻也の系譜。僕自身も学生時代はCBでした。 サッカーやフットサルをプレーする傍ら、ゆるく現地観戦も。W杯はフランスから連続現地観戦。アーセナルファン。
サッカー書籍の紹介やコラム、海外現地観戦情報をお届けします。

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