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[書評] フットボールサミット第12回 FCバルセロナはまだ進化するか?


バルセロナの覇権は終焉を迎えるのか。

なんとも皮肉なタイミングでの出版である。フットボールサミットの今号の特集テーマは「FCバルセロナはまだ進化するか?」。そのバルセロナはUEFA CL準決勝でバイエルンに完膚なきまでに叩きのめされた。アウェイで0-4、ホームで0-3、まるで格上の相手が格下を一蹴したようなスコアである。そして実際、バイエルンがバルセロナを一蹴したと表現しても大げさではないだろう。それくらい、為す術もなくバルセロナは敗れていった。

そんなバルセロナだが、ここで敗れたことでこれまでの功績にケチがつくものではないだろう。「クラブ以上の存在(mes que un club)」という理念のもと、ポゼッションを高めて美しく勝つそのスタイルは世界中のサッカークラスターが注目し、多くのジャーナリストがバルサスタイルを研究した。今日ではもはやバルセロナについて文字ベースで語れる新しい情報はほとんど存在しないといって差し支えない。それくらい、世界中でバルセロナは話題になった。

フットボールサミットに興味を示す人は、少なからずバルセロナについてある程度の知識は持ちあわせていると思う。筆者も、ある程度は知っているつもりである。そんな「バルセロナについて多少は知っているよ」という筆者が本誌を読んで「お、これは!」と感じた内容を3つ、紹介しておきたい。

シャビが語るバルセロナのスタイル

巻頭にシャビのインタビューが収録されており、なかなか読み応えがある。その中で気になったのが、シャビがバルセロナの成功について語った以下のくだりである。

それ(筆者注:バルセロナというクラブを世界に浸透させること)こそが成功であり、僕らが望んでいる勝利でもある。僕らがひとつのエコール(筆者注:流派)になること、僕らが成し遂げた結果が、ある監督たちに僕らのような構築的なスタイルを志向させることは、僕らにとって大きな名誉だ。(P.21から引用)

スペイン語のなんという単語を「構築的」と訳したのかは知らないが、最高の適語であると思う。バルセロナは勝利の確率を高めるためにポゼッションの割合を高めることを重要視し、1つ1つのプレーを分断するのではなく構築的に捉えてフィニッシュまでの道のりを描いている。そしてこの構築的という言葉にこそメッシという稀代の天才が活きる土壌があるように思えてならない。

勝負哲学』(筆者のレビューはこちら)の中で羽生善治氏と対談した岡田武史前日本代表監督は、ひらめきの概念について以下のように語っている。

ひらめきの正体は何ですかという質問を受けるんですが、私のとぼしい語彙ではうまく言語化出来ないんですよ。ピンときた、カンが働いたとしかいいようがないし、カンの中身を問われても説明はむずかしいんです。 ただ、それが天から突然、降ってくるものではないことは確かです。
(中略)
答えを模索しながら思考やイメージをどんどん突き詰めていくうちにロジックが絞り込まれ、理屈がとんがってくる。ひらめきはその果てにふっと姿を見せるものなんです。だから、その正体は意外なくらい構築的なもので、蓄積の中から生み出されてくるという感触がある。助走があって初めて高く跳べるようにね。(P.21-22から引用)

勘やひらめきは実はロジカルに構築した先端に存在するものであるという。それこそ、バルサのスタイルと同じではないだろうか。構築的にティキタカ(パスサッカー)を続けたその先に、メッシが一瞬のひらめきを見せて得点を奪う。

シャビが自らの口で「構築的」という表現をしたことでバルセロナが貫いているスタイルがすっと筆者の中で理解できた気がした。

リージョの捉え所のない話を斬る

グアルディオラが師とあおぐフアン・マヌエル・リージョ。彼のインタビューは禅問答のようで捉え所がなく、非常に難解である。ただ、表現は婉曲的であるがリージョの言っていることは自然科学的な本質をついている。

例えば、リージョはチームと選手を分離して考えていない。すべては個であり全体であるというフラクタルな側面をサッカーに見出している。そのため、(バルセロナには)戦術というものは存在せず、選手(の才能)そのものがサッカーを形作るという分かるようで分からない持論を展開している。

この手の考えは『バルセロナが最強なのは必然である グアルディオラが受け継いだ戦術フィロソフィー』(筆者のレビューはこちら)に詳しい。フットボールを自己組織化や再帰性といったニューサイエンスの世界から紐解いている。

リージョの言葉で最高に難解なのが、バルセロナがさらにプレーを向上させるための鍵を問われて回答した以下のくだりである。

人間というのは、ピラミッド構造ではなく、網状の構造でできている。そこには希望が存在し得る。我々はどこからも落ちることはなく、また全てを忘れてしまうこともない。言わんとしていることは分かりにくいかね?(苦笑)つまりは、才能豊かな選手が増えることによる成長は、チームが成長していく上で重要なポイントになるということ。個々の長所を結びつけることで、集団にうまく還元されていくのである。(P.50から引用)

これは驚きで、リージョはパターン・ランゲージについて語っている。パターン・ランゲージとは建築家アレグザンダーが提唱した理論で、建物や街の形態は機能を分解して要素に分解できるものではなく、一定のパターンが重複も許容する形で網状に構成されていると考えたものである。

パターン・ランゲージについては『パターン、Wiki、XP ~時を超えた創造の原則』が詳しい。

「ツリー」(tree、木)と「セミラティス」(semi-lattice、半束)は、もともと数学の集合論に出てくる用語です。アレグザンダーがこの論文(筆者注:『都市はツリーではない』と題した論文)で主張したい本旨は、「現代の都市計画は分離分類を旨とする過度な階層構造主義に陥っており、自然都市に見られる場所と機能の適度なオーバーラップを軽視している」ということです。そのことを分かりやすく表現するための対立概念として、「ツリー」と「セミラティス」を登場させたのです。
(中略)
アレグザンダーは、人工都市がツリー構造になってしまう原因は、人間の認知能力の限界にあるとしました。人工都市は少数の建築家が全体を設計するため、複雑に絡み合った条件を必然的に少数の要素に還元して考えます。つまり、要素間の関係性は半ば必然的にツリー構造に還元されてしまいます。それに対して長い年月を経てできあがる自然都市は、そのようなツリー構造を持ちません。1つの場所が複数の役割を同時に担うセミラティス構造を持っています。(P.22-23から引用)

リージョは、チームとは選手の能力の総和でできているものではなく、個々の長所が複雑に絡み合い、影響し合い、相互作用的に涵養されることで何らかの形で還元されることで成長すると言っていると思われる。すべては階層構造ではなく、網状(セミラティス構造)なのである。だから単純にセンターバックを補強すれば良いというような近視眼的な指摘は誤っており、CBを補強した結果として長所がうまく還元されればそれこそが成長である、ということである。当たり前のことをすごそうに言うものだと感心する。しかしこれほど本質を突いている発言もない。成長は相互作用なのだから、鍵という物質的な観念では表現できないという皮肉なのだろう。

余談だが、パターン・ランゲージに関しては慶応大学の井庭崇准教授が日本の第一人者であり、パターン・ランゲージを学習に応用した「学習パターン」、プレゼンテーションに応用した「プレゼンテーション・パターン」を無償で公開している。

遠藤が語る対バルサの「術」

眼・術・戦 ヤット流ゲームメイクの極意』(筆者のレビューはこちら)でも本人が語っているように、遠藤は守備における数的同数はOKだと考えている。バルセロナの強みであるハイプレスは後ろの数的同数をOKとしてリスク承知でやっているから効果があると、そう考えているようである。バルセロナのプレスの秘訣、ポイントについて本誌フットボールサミットの中で次のように語っている。

ひとつはプレスに行くスピードと攻守の切り替えの早さでしょうね。それがすごく早い。あとは、後ろが数的同数のことが多いんですよ。それも大きな要因だと思います。普通の監督なら、リスクを考えて後ろにひとり余らせますよね。でも、余らせるということは、どこかで相手がひとりフリーになっているということ。バルサはそれをなくしてる。(P.68から引用)

ちなみに、バルセロナを倒すとしたらオール・マンツーマンで最終ラインを出来る限りプッシュアップで守るそうである。ビエルサの考えと同じなようだ。

論客たちはまだ覇権が続くと考えていたようだが

果たしてバイエルンの試合を見ても同じように答えたか。リージョにいたってはバイエルンなどのチームとスペインの2強の距離を「星と星ほど離れている」と言ってのけたが、実際はどうだったのか。今後のバルサのサッカーを見守りたい。




tags football summit, アレグザンダー, シャビ, バルセロナ, パターン・ランゲージ, フットボールサミット, メッシ, リージョ

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プロフィール

profile_yohei22 yohei22です。背番号22番が好きです。日本代表でいえば中澤佑二から吉田麻也の系譜。僕自身も学生時代はCBでした。 サッカーやフットサルをプレーする傍ら、ゆるく現地観戦も。W杯はフランスから連続現地観戦。アーセナルファン。
サッカー書籍の紹介やコラム、海外現地観戦情報をお届けします。

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