今回は冷静に数値を見つめた話。
以前もブログで取り上げた横浜Fマリノスの債務超過の件。復習すると、2012年度は5億円の営業赤字で、累積の債務超過は約17億円。これがなぜまずいかというと、クラブライセンス制度の財務基準に抵触するから。
- 3期連続純損失を計上していないこと(12-14年度から算定)
- 債務超過でないこと(14年度から算定)
クラブライセンス制度に抵触すると、Jクラブライセンスが供与されない、つまりJ3あるいはJFLに落ちるということである(J3はAFC準拠ではない基準を作成しようとしているので、Jクラブライセンスとは別扱いになる公算が高い)。
今のところまだ2012年度の決算までの状況なので、あと2事業年度残っている。だからまだアウトではない。だけど僕は限りなくアウトだと思っている。
もう一度決算を見つめてみよう
まずは現実を知らなければ対策もできない。比較のために、浦和レッズと横浜Fマリノスの2012年度決算を並べてみた。
項目に多寡が存在するのは、浦和レッズは公式サイトで2012年度営業概況として細かい数値を公開しているから。横浜Fマリノスも公式サイトで2012年度決算についてを発表しているが、浦和レッズほど細かくはない。情報を公開していないということは、何かやましいことがあるからと勘ぐってしまうのが心情だ。最終的にサポーターにも協力を仰いだり納得してもらうことが必要かもしれないので、積極的な情報公開をすべきと、第三者として感じてしまう。
それはさておき、決算は数値なので単純に収入が支出を上回ることが何より重要である。どこかの数値を増やしたり減らしたりしなければならない。それを考えるために、いくつかの前提を抑えておきたい。
嘉悦社長の決意と現実的な着地点
横浜Fマリノスの嘉悦社長がどのような人物なのか知らないが、このインタビューを読む限り横浜Fマリノスのことを真摯に考えている経営者であると伺える。
ゴーンの懐刀が挑む、マリノス改革の全貌 | 横浜F・マリノス、嘉悦朗社長に聞く(上)
マリノスは、なぜ好調なのに"赤字"なのか | 横浜F・マリノス、嘉悦朗社長に聞く(下)
このインタビューの中で、以下のような発言がある。
これまで大企業を親会社に持つJリーグのクラブでは、たとえ赤字が出ても、親会社から宣伝広告費として追加出資してもらい、最終的に帳簿上はプラスマイナスゼロにすることが慣例になっていた(もちろんすべての経営者がそうではなく、犬飼基昭は浦和レッズの社長時代、三菱自動車からの赤字補填をストップした)。
だが、嘉悦は自前の経営を目指し、日産からの赤字補填を実質的にゼロへ。赤字が出ることを覚悟した、勇気ある決断だった。
つまりは、赤字が出ることを恐れずに親会社(日産)への依存体質からの脱却を図ろうと改革を進めているのである。
ところが、そこにクラブライセンス制度導入という黒船がやってきた。これは嘉悦社長にとっても誤算であったようだ。
クラブライセンス制度によって、急に赤字が許されなくなったのは、僕の最大の誤算です。それでも親会社からの補填なしで、ぎりぎりまで挑戦したい。こういう真意があるのに赤字だけ見て非難されるのは、アンフェアだと思います。デッドラインの2014年度末まで、あと1年半ある。最後はどこかで日産に頼まざるをえない瞬間が来るかもしれないですけれど、悪あがきを続けたい。
このインタビューが公開されたのが2013年5月23日。この時点ではまだ2012年度決算は発表されていないが、社長であれば当然耳には入っていただろう。その後、2013年7月9日に5億円の営業赤字と17億円の累積損失を発表。これに先立ち、2013年6月26日の朝日新聞の記事横浜F・マリノスが債務超過 社長「日産の支援必要」(会員ページ記事) で以下のように語っている。
では、ライセンス維持の条件となる「14年度に債務解消」はできるのか。「自主再建路線では難しい。着地点が破滅的にならないように日産側と話し合っている」。ただし、仮に経営が健全化しても、チームが弱体化すればサポーターは納得しない。「マリノスは優勝を争うチーム。一定レベルの強化費は不可欠で、そこは絶対に譲れない」とも約束した。
時間軸としてそんなに離れていない2つの記事で一方では「悪あがきを続けたい」、一方では「自主再建路線では難しい」と語っている。部外者からすれば二枚舌に聞こえてしまうのは否めないが、後者が本音であろう。
日産に頼るとは、具体的には広告料としてお金を出してもらうことを指す。ここで、横浜Fマリノスが日産に頼ってきた歴史を振り返っておく。
横浜Fマリノスは日産の支援で生き残ってきた
このブログが非常に分かりやすく横浜Fマリノスの収益構造や日産との関係についてまとめてある。上が2011年度について、下が2012年度について。
【考察】 マリノスの収益構造について: 横浜御用牙RSV 清義明のブログ
清義明のブログ Football is the weapon of the future REDUX 2030年のJリーグ未来予想 (1) -続【考察】マリノスの収益構造について-
このブログによると、過去2005年〜2007年には横浜Fマリノスの広告料収入が25億円を超えていたようだ。日産だけの広告料ではないので日産の支援額を精緻に捉えることはできないが、2012年度の広告料収入13億円と比較しても、現在は当時より10億円以上は日産の支援額が下がっていると考えて良いだろう。
その要因は、もちろん日産本体の費用対効果の結果でもあるだろうし、嘉悦社長(2010年に社長就任)の改革の影響もあるだろう。ただ紛れもない事実として、横浜Fマリノスは親会社の補填があって初めて収支をトントンにできる、高コスト体質のクラブであるということである。
現実問題として、債務超過は解消できるのか
横浜Fマリノスはマリノスタウンという素晴らしいクラブ施設を保有している。ただ、横浜の一等地の土地代が高いからクラブの収支をマリノスタウンが圧迫しているという話も聞く。先の決算でいえば、一般管理費に土地代や運営費を入れ込んでいるだろうから、おそらく実際にこれは高額であり、だからこそレッズのように細かい数値を出したくないのだろうと邪推する。
しかし、もはやその程度で解消できないほどに債務超過は膨らんでいる。
売上規模が37億円のクラブが17億円の債務超過である。しかもこれを2年間で解消しなくてはならないという。
僕は、難しいと思わざるを得ない。
仮に、日産がかつてのようにあと10億円を2年間追加融資してくれたとしよう。横浜Fマリノスは5億円の赤字クラブだから、+10億円で黒字額が5億円ということになる。これを2年間積み上げても、債務が10億円解消するだけで、あと7億円足りない。一般管理費が15億円だが、レッズの収支を見る限りはマリノスタウンのような施設関連でいくら節約する(マリノスタウンの保有をやめる)ことになっても、せいぜい年間3億円くらいが関の山だと思う。マリノスタウンを手放したら他の練習場が必要になるからそのための経費を考える必要もある。
嘉悦社長は強化費には手をつけないというような趣旨の発言をしている。ただ、事態は甘くない。日産から追加で10億円の広告料を2年間受けたとしても、もはや強化費に手を付けざるを得ないだろう。社長として言えることは、高年俸選手(中村俊輔、中澤佑二、マルキーニョスら)を放出したとしてもクラブとして弱体化はしない(=強化は怠っていない)というロジックを作り上げるくらいしかない。
ウルトラCはあるのか?
日産が年間20億円追加で出せば、もちろん余裕で乗り切ることができる。
さもなければ、残された道は横浜市やサポーター、日産以外のスポンサーがどれだけ何ができるのかという足し算(増資含む)になってくる。いざとなったらJリーグからの融資があるかもしれないけど・・。これをやってしまったら猶予期間を与えてクラブライセンス制度に踏み切った意味がなくなってしまうし、リーグとしての示しが付かないから個人的にはやめてほしい。
あとは、借入金を株式に変換するデット・エクイティ・スワップ(DES)で債務を減らすやり方もあるけれど、横浜Fマリノスは資本金3100万円で大株主は日産。DESをやるとたぶん金融機関が筆頭株主になってしまうのではないかと・・。あんまり詳しくないけど、これは日産的にも横浜Fマリノス的にもよろしくないのではないかと思われ。
2014年度の決算が出るまであと2年。横浜Fマリノスだけの問題でもないし、皆で考えていかないといけないですね。個人ができる行動としては拙ブログのコカ・コーラを飲んで、カルビーのポテトチップスを食べるをどうぞ(ステマ)。
tags クラブライセンス制度, 債務超過, 嘉悦社長, 日産, 横浜Fマリノス
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