いよいよ2014シーズンのJリーグが開幕する。ワールドカップイヤー、久々の超大物フォルラン効果などもあり、サッカークラスターの周辺では一定の盛り上がりを見せている。
さて、2014シーズンといえばいよいよクラブライセンス制度の財務基準による実効支配が始まる年度となる。財務基準をクリアする要点は以下の2点に集約される。
- 2012年度以降、3期連続で当期純損失(赤字)を計上していないこと
- 2014年度以降、債務超過に陥らないこと
これを守れないクラブはJリーグクラブライセンスを剥奪される。すなわち、J3やJFLなどへの降格である。
Jリーグは全クラブに決算書の提出を義務付けており、サイトで公開されている(一番下のJクラブ個別経営情報開示資料)。
2013年度の決算は2014年の8月ころに全クラブ分が出揃うので、現時点ではクラブライセンス制度に影響のある年度としては2012年度のものしか存在しない。しかし、2012年度の資料を見るだけでも十分に「危ないクラブ」が見えてくる。そこで本エントリーでは財務基準の2要件に照らし合わせ、「危ないクラブ」とその危険レベルについてまとめておく。
2012年度赤字計上クラブ
まずは要件の1つ目、赤字についてである。2012年度(平成24年度)Jクラブ個別情報開示資料をもとに、赤字を計上したクラブについて赤字額が多い順に並べた表を作成した。
細かい数値は一切省き、営業収益、営業費用、営業利益、当期純利益(損失)の4項目のみで構成してある。営業利益から特別利益/損失(不動産の売買や役員の退職金など)や税金を加えたものが当期純利益(損失)であり、財務基準で確認されるのはこの当期純利益(損失)がマイナスであるかどうかである(表内黄色セルで作成)。
また、クラブライセンス制度に直接影響はしないものの、前年度である2011年度における純利益(損失)についても掲載してある。
各クラブについてのコメントは後述する。
2012年度債務超過クラブ
次に要件の2つ目、債務超過についてである。債務超過とは、負債の額が資産の額を上回った状態を指し、つまりは保有している資産をすべて売却したとしても負債を解消できないということである。
これについても2012年度(平成24年度)Jクラブ個別情報開示資料をもとに債務超過クラブについて債務の額が多い順に並べた表を作成した。
赤いセルのクラブは2012年度決算が赤字且つ債務超過に陥っているクラブであり、財務基準要件を2つともクリアしていない、いわば「警告」クラブである。
この7つの「警告」クラブに加え、2012年度赤字額が膨らんでいる名古屋、福岡を加えたクラブについて個別に状況を確認してみたい。
札幌 危険レベル3 〜 野々村社長の仕掛けが芽を出すか
試合関連経費であるスタジアム使用料が札幌を苦しめている。札幌の試合関連経費は2億5000万円であり、J2クラブ(札幌は2012年度はJ1だったが)の平均は8000万円であることを考えるとやはり高額である。登別が300万円、札幌ドームが800万円という話もあり、これではクラブ経営は苦しくなるだろう。
2013年3月に野々村芳和氏が社長に就任し、いろいろと仕掛けているので期待がないわけではない。
ベトナムの英雄と呼ばれるレ・コン・ビン獲得、それに伴う住友商事メディア事業本部とのスポンサー締結など光も見えた(レ・コン・ビンは退団済み)。このような仕掛けが他にも芽を出せば、3700万円の債務超過の返済の目処も立つと思われる。負債額もそこまで大額ではないので、最後はどうにかして帳尻をあわせてくるだろう。
栃木 危険レベル5 〜 小さな積み重ねでカバーできるか
財務を発表している2007年度から6シーズンで1シーズンしか黒字計上していない。財務を見ても決定的に悪いところがあるというよりは全体的におしなべて良くないといった印象。ただ、だからこそ改善が難しいとも言える。
債務超過額こそ5600万円だが、2012年度の純損失が1億円を超えており、このままでは危ないだろう。2013シーズン途中にこれまで築き上げてきた松田浩監督のセオリー通りの4-4-2から、引いて守ってカウンターを仕掛けるサッカーへと「戦略的撤退」も余儀なくされている。シーズンオフにはパウリーニョら主力も放出した。J1を目指す路線から人件費を抑え、現実を鑑みたクラブ経営に舵を切っているので、この路線でどこまで支出が抑えられるかがポイントになる。
過去に協賛企業への出資のお願いをして資金を引き出しことがあるので、再度そのやり方を使うのは難しい。栃木の選手やスタッフも参加する街での募金活動など小さな活動も始めており、これらの積み重ねでどこまでカバーできるかがポイントになるだろう。
熊本 危険レベル6 〜 資本の注入がないと難しい
熊本も栃木と同じく決定的に悪いところがあるというよりは全体的に足りていないという難しい状況である。年間予算が6億円くらいのクラブが7000万円と10%を超える債務超過を抱えており、数年でリカバリーするのは難しいと言わざるをえない。
2013年度の決算でどこまで債務超過を回復できているのかにもよるが、額によっては大口スポンサーを取り付けないとかなり厳しい状況である。
群馬 危険レベル7 〜 新社長の手腕に期待
2月26日に役員を刷新し、都丸晃(とまるあきら)新社長が発表された。新社長のミッションはクラブの強化もあるだろうが、何よりもまずは財務体質の改善である。都丸社長は記者会見でコストの削減やスポンサーの発掘など改善策を打ち出したが、どれも具体策には欠けておりパンチ力はない。
また、もともとのホームタウンであった草津市からは出資を受けているものの、ホームスタジアムがある前橋市やクラブ名にも冠されている群馬県からは出資が得られていない。
もちろん小さな努力も必要だが、8700万円の負債はそういうレベルでどうにかなるものではない。県や市、民間企業から出資を受けることができるか、そのためにクラブがどのように変わっていくのか、新社長の手腕が問われる。
岐阜 危険レベル0 〜Jトラストの支援による復活
2012年時点では債務超過額がJ2クラブとしては絶望的な額である約2億円にまで膨れ上がり、破綻にもっとも近い存在と言われていた。ところが2013年、Jトラスト株式会社代表取締役社長の藤澤信義氏から企業、個人として出資が発表された。社長個人としてもまず1億5000万円という資金が用意され、今後も無制限に支援していく方針であるという。
これにより監督にラモス瑠偉氏を招聘することに成功し、メディアに露出する機会も増えている。
岐阜はJトラスト、そして藤澤社長に完全に命運を握られているということにはなるが、まずは財務に関して心配することはないだろう。
福岡 危険レベル5 〜 ふくやの心意気を無駄にしてはいけない
2012年時点では債務超過ではなかったが、2013年末にキャッシュフローが足らずこのままでは選手やスタッフへの給与の振込が遅延するという衝撃的なニュースが発表された。時期的にもはや遅延もやむ無し、下手をすればこのまま破綻かとも思われたが、明太子のふくやによる粋な支援のおかげもあり、一時的にはキャッシュは回復したようである。
筆者が購入したふくやのアビスパ支援明太子セット
しかし、抜本的な改善がなされたわけではない。
福岡は支出の半分が人件費である。収入額はJ2平均より低いのに人件費はJ2平均より高いという事実を受け止め、まずは人件費の削減が求められる。
2013年度の決算を見てみなければ分からないが、2012年度までは債務超過ではなかったので途方もない額の債務があるわけではないだろう。地道に改善すればどうにもならないわけではないと思われる。
名古屋 危険レベル3 〜 人件費の削減と最後のトヨタ頼み
福岡と同様、2012年時点では債務超過ではなかったが2012年度の赤字額が約3億円と巨額なので危ない。営業費用は浦和に続いてJクラブ第2位である。特に人件費が20億円でこれはJクラブトップである。
闘莉王、楢崎、玉田、ケネディなどの高年俸選手を依然として抱えているものの、2013シーズン終了後に増川、阿部、田中隼磨など主力級の選手を放出した。
またバックには天下のトヨタ自動車がついており、もちろんいつまでもスポンサーに頼り続けるわけにはいかないが、当面は足りない分は補填してもらえるだろう。赤字額は大きいが、危険レベルは低いと思われる。
神戸 危険レベル2 〜 J1特需の期待と楽天の支援
神戸は2012年度は3億円の赤字と膨らんでいるように見えるが、実はこれでも年々赤字額が減ってきている。とはいえ毎年度赤字なので累計がかさみ、債務超過が12億円となっている。
しかしあまり悲壮感が漂わないのは、楽天が補填してくれるという安心感があるからだろう。2014シーズンでJ1にあがることで、おそらく単年度決算は黒字にできると考えている。単年度で黒字であればプライマリーバランスとしてはOKなので、クラブライセンス制度をクリアするために楽天は一時的に債務超過を解消するだけの資金援助を間違いなくすることだろう。
他のクラブから考えればうらやましい限りである。
横浜FM 危険レベル9 〜 日産と清濁併せ呑んだ交渉が必要
横浜Fマリノスは日産の追加支援があっても債務超過を解消できると思えないにも書いたように、マリノスは危機的な状況である。
嘉悦社長の取り組み努力は分かるが、2011年度の赤字額5億8000万円、2012年度の赤字額6億3000万円で債務超過額が16億7000万円とどれも群を抜いている。ただでさえ日産から10億円規模の巨額の支援を受けているのだが、帳尻をあわせるためにはおそらく2014年度に25億円程度の支援が必要になる。
日産はかつて経営不振に陥った際にルノーに助けれた経緯があるが、今度はルノーが経営不振に陥っている。当然、昔助けたのだから今度は助けてくれよということになるだろう。そういった状況で、マリノスに25億円もの額を出資することができるのか。相当厳しい交渉が待ち構えていることが間違いない。
まとめ
J1クラブで危ない名古屋、神戸、横浜FMは負債の額もでかいがやはり後ろ盾があるのは心強い。厳しいのは群馬、熊本、福岡のようなクラブということに結局なってしまう。こういったクラブにウルトラCはないので、Jリーグ100年構想に立ち返っていかに地元からの理解を得られるか、この地道な努力の積み重ねしかないだろう。
C大阪、川崎F、湘南などのように、クラブ経営において「強化」と「事業」を分離し、いかに地元に密着したクラブを作っていくのかという理念や経営手腕が問われている。川崎Fのプロモーション部部長である天野春果氏による『僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ』(筆者のレビュー)では事業の強化についてのヒントが散りばめられていて参考になる。
願わくば、2014シーズン終了後に全てのクラブがクラブライセンス制度を乗り越えていますように。
tags クラブライセンス制度, 債務超過, 横浜Fマリノス
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