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[書評] サッカー小僧005 ファイナルサードの奇術師たち


個性豊かなライターたちが異端の点取り屋たちを様々な角度から掘り下げる。

サッカー小僧は隔月で出版されるムック本で、謳い文句は以下の通りである。

『読めば「見る目」が上がる』をコンセプトに、サッカー界のコアなテーマを取り上げ、様々な視点から真髄に迫る!

第5号である本誌はファイナルサードにおいて違いを見せる選手たちを特集している。特集タイトルは「ファイナルサードの奇術師たち」である。ちなみにファイナルサードとは「得点を奪うための最終局面」という意味でアタッキングサードと同義だそうだ。

メッシ、クリスティアーノ・ロナウド、ファルカオ、ネイマール、香川真司、ダビド・シルバらにスポットを当て、彼らのプレースタイル、メンタリティ、活かし方などを紹介している。10名以上の個性豊かなライターが執筆しているため内容も温度感もバラエティに富んでいる。

個人的には、もっと「違いを生み出すメカニズム」に迫る内容を読みたかった。表紙には「最終局面で"違い"を見せ、組織に"バグ"を起こす選手とは?」と大きく書かれており、そうであればバグの起こし方がポイントになると感じるのだが、そういったプレー内容には一切触れずにメンタリティやチーム事情などに終始している記事も多い。

そんな中で、「バグの起こし方」にポイントを絞って寄稿しているのが河治良幸氏と西部謙司氏だ。

河治良幸氏はファルカオがペナルティエリアで力を発揮している視点を3つに分け、それぞれ図を用いてファルカオの動き方とともに紹介している。その2つ目の視点として紹介している「いち早くボールの到達点に入り込む」というものは、当たり前のように聞こえるが避けて通れないストライカーの条件だと個人的にも考えている。クリスティアーノ・ロナウドの得点も単純なセンタリングに「いち早く到達したから」というパターンが多い。日本では岡崎慎司が秀でている能力で、「戦術」という括りではないのでライターからは文章にしにくいが重要なプレーである。

西部謙司氏は香川とマンチェスター・ユナイテッドの担当で、香川がチームで活きるヒントとしてバルセロナのプレースタイルを紹介している。

現代のサッカーは、ゾーンディフェンスが主流だ。香川のように「間で受ける」ことに長けた選手は。ゾーンを破るために有効な武器になる。ユナイテッドが香川を獲得した理由の1つは間違いなくそれだ。
(中略)
90年代に普及していったゾーンディフェンスだが、近年はその"天敵"ともいえるチームが現れた。バルセロナと、バルサの選手を軸としたスペイン代表だ。彼らはゾーンの隙間にパスをつなぎ、ゾーンが収縮して網をかける前にボールを逃してしまう。収縮といっても、まったく同時には行われない。1ヶ所が縮まれば、他の場所は隙間が大きくなる。
(中略)
時間とスペースを奪うはずのゾーンディフェンスは、それを忠実にやろうとすればするほど、逆にバルサやスペインの選手にスペースを与えてしまうパラドックスに陥ってしまった。(P.58-59から引用)

最後はメッシがフィニッシュすることが多いバルセロナだが、メッシが単独でバグを起こしているわけではなくチームとして相手のディフェンスを混乱に陥れるメカニズムを内包しており、それがことさらメッシの個人能力を際立たせているというわけである。このあたりのゾーンの壊し方の言説は『バルセロナが最強なのは必然である グアルディオラが受け継いだ戦術フィロソフィー』と同じで個人的にも納得できる。また、西部謙司氏はP.176からの「バルセロナに見るファイナルサードの崩し方」も担当しており、メッシを使いつつチームで崩すパターンを紹介している。

香川もチームとして活かすような形にしないと縦ゴリゴリとカウンター中心のサッカーの中ではなかなか活躍が難しそうで見ていて歯がゆい。特にウェルベック・・。リターンを香川に返して・・と言いたいが、それでもウェルベックは実際香川よりも点を取っているし、なかなか難しいところだ。

欲を言えば、ファイナルサードでバグを発生させるための所作として『バルセロナが最強なのは必然である グアルディオラが受け継いだ戦術フィロソフィー』で言及されている以上の解説やレトリックを期待したからこそ本誌の特集タイトルを見て購入したのだが、そこまでは望めないようだ。

特集タイトルだけでなく内容にもエッジをきかせ、是非ともNumberに対抗してほしい。次号は4月25日発売で特集タイトルは『監督論 指揮官とは?』を予定しているようだ。期待を込めて、購入する。




tags アタッキングサード, サッカー小僧, 河治良幸, 西部謙司

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プロフィール

profile_yohei22 yohei22です。背番号22番が好きです。日本代表でいえば中澤佑二から吉田麻也の系譜。僕自身も学生時代はCBでした。 サッカーやフットサルをプレーする傍ら、ゆるく現地観戦も。W杯はフランスから連続現地観戦。アーセナルファン。
サッカー書籍の紹介やコラム、海外現地観戦情報をお届けします。

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