サッカーは要素還元では成り立たない包括的なものである。
インテレラショナード。聞きなれない言葉であるが、大切な概念を説明している。インテレラショナード・トレーニングとは何か。
本書では、サッカーのトレーニングは技術面、戦術面、フィジカル面の3つを強化するものに大別できるとしている。ただし、サッカーという競技の中でそれぞれが個別に発揮されることはなく、複合的に密接に関連している。よって、トレーニングも技術のみなどの個別のトレーニングではなく、複合的、相互作用的に実施することが求められる。
そこで本書では、複合的なトレーニングについて以下のような名称をつけて説明している。
(P.19をもとに筆者作成)
つまりインテレラショナード・トレーニングとは、フィジカルトレーニングをベースとして技術面、戦術面を加えたトレーニングのことである。
ちなみに、本書では技術面などの個別の要素のみを対象としたトレーニングをアナリティコ(分析的)トレーニングと呼んでいる。
インテレラショナード・トレーニングの意義
フィジカル・トレーニングを単体で行うということは、100メートルダッシュをしたりシャトルランをしたりファンクショナル・トレーニング(共通した動作の機能を向上させることを目的とした(筋力)トレーニング)を実施することを意味する。
これらのトレーニングに意味がないというわけではない。アナリティコにはアナリティコの良さがある。しかしより実践的な場面を意識すると、アナリティコだけでは足りなくなってくる。実際のゲームではフィジカル的な負荷がかかった状態でボールをコントロールしたり、相手の攻撃に対して組織的にディフェンスをしたりと、必ず「フィジカル+技術」「フィジカル+戦術」とった組み合わせになってくるからである。
技術、戦術、フィジカルは個別のものではなく密接に関わり合ってる。であればトレーニングから複合的な発揮が求めれるようにすればよいという発想に行き着くのは道理であり、そこから生まれたのがインテレラショナード・トレーニングである。
豊富なトレーニングメニューの紹介
インテレラショナード・トレーニングというメソッドの提示もさることながら、本書の最大のポイントは42ものトレーニングメニューがカラーの図解入りで紹介されていることだろう。トレーニングメニューはウォーミングアップ、有酸素性持久力トレーニング、無酸素性持久力トレーニング、パワー・トレーニング、そしてフィジカルは除いたグローバル・トレーニングに分かれ、目的が明確化されている。それぞれのメニューにおいて技術、戦術、フィジカルのうちどのポイントをトレーニングできるのか、進め方、ポイントなども詳細に解説されているのでトレーニングの意図も分かりやすい。
トレーニングメニューをここまで詳細に紹介している書籍は少なく、それだけで本書には価値があると言える。
戦術的ピリオダイゼーション理論との関係
インテレラショナードという言葉は聞いたことないが、戦術的ピリオダイゼーション理論なら聞いたことがあるという人もいるだろう。複合的なトレーニングということで戦術的ピリオダイゼーションとの違いも気になるところである。
戦術的ピリオダイゼーション理論とは、『バルセロナの哲学はフットボールの真理である』(筆者のレビュー)によると次のような説明がなされている。
サッカーというゲームに内在する重要な局面やファクターを分断せず、と同時に、このスポーツに内在する不確実性をしっかりと認識したメソッド(P.40から引用)
本書では戦術的ピリオダイゼーションという言葉は出てこないが、以下のような記述がある。
これまでに、インテレラショナード法はフィジカル面と技術的戦術的要素を同時に養う実戦的なトレーニングであると述べてきました。さらに実戦的に行いたい場合には、インテレラショナード法にプレーモデルを反映させることが大変有効になります。
プレーモデルとは、自分たちが目指そうとするプレー像のことです。
「どのような選手を育てたらいいのか、チームにどのようなプレースタイルを求めたらいいのか、それにはどのようなシステムでプレーしたらいいのか、選手にはどのようなプレーを求めたらいいのか?」
そうした自問に対するクラブや指導者の答えによって導き出された構想、つまりはクラブや指導者の哲学やビジョンによって描かれた構想、それがプレーモデルです。プレーモデルがないと、選手は何のためにトレーニングを積んでいるのか分かりません。そうなると、日常のトレーニングがただ漠然としたものになってしまいます。(P.73から引用)
誤解を恐れずに端的に言えば、このプレーモデルの構築のためのトレーニングが戦術的ピリオダイゼーション理論であると理解できる。インテレラショナード・トレーニングの中にも戦術や技術を扱っているものがあるので明確な区分けはないが、あくまでフィジカルに重きを置いたのがインテレラショナード、試合を想定したプレーモデルの構築に重きを置いたのが戦術的ピリオダイゼーション理論と捉えて良いと思われる。
最後に、名称について
インテレラショナードという言葉は言いにくいし覚えにくい。「インテレラショナード」でGoogle検索をしても、本書に関する情報や記事がほとんどである。浸透していないと考えて良いだろう。今後浸透する可能性もあるが、覚えにくいのは致命的である。
ちなみに、知のサッカーでは以下のような定義でトレーニング・メソッドを定義(サカイクによる)している。
アナリティックメソッド:「反復練習」の意味で味方同士で行う対面パスやコーンドリブルなど、試合で必要なアクション(動作)の一部を切り取り、重点的に繰り返し行うトレーニングのことを言う。
グローバルメソッド:「包括的な練習」という意味で、試合とほぼ同じ状況を再現することにより、プレーのレベルアップに必要な多くの要素(認知・判断・技術・戦術・フィジカル・メンタル等)を同時にトレーニングする方法。
アナリティックに関しては英語かスペイン語かだけに違いだが、「グローバル」については本書による定義とは異なっているので注意が必要だ。
tags アナリティコ, インテレラショナード・トレーニング, グローバル・トレーニング, 徳永尊信, 戦術的ピリオダイゼーション理論, 知のサッカー
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