プレーモデル構築のためのトレーニングの教科書。
本書はサッカーの戦術や個人技についてのTipsをまとめたブログfootballhackの管理人silkyskillさんによるKindle本の第二弾である。第一弾『4-4-2ゾーンディフェンス セオリー編』(筆者のレビュー)がまさしく4-4-2のセオリーについてまとめた基本編であるとすれば、第二弾はそれを実践に移すための応用編であると位置づけることができる。
第二弾である本書から読み始めても理解が進むが、第一弾で説明されているゾーンディフェンスのイロハについて順番にトレーニングしていく構成となっているので、より詳しく理解したい場合は第一弾のセオリー編もぜひ手に取ってほしい。
ちなみにセオリー編は、僭越ながら筆者による「2013年に読んだサッカー書籍50冊から選んだ蹴球ファカルティ的ベスト5」でも3位に選ばせていただいた。戦術指南書として至高の一冊である。
技術に先立つ戦術という考え方
サッカーのトレーニングというとテクニックの上達を目的としたものになりがちである。昨今のバルセロナやバイエルンが席巻しているフットボール界ではますますその傾向が強まっている。しかし、バルサのカンテラ指導などにあたったコーチ陣による知のサッカーも言うように、テクニックだけが重要なわけではない。
私はこれまで、多くの高いテクニックを持った選手に出会いました。しかし、彼らが必ずしもサッカーが上手だとは限りませんでした。ボール扱いがうまいことと、サッカーをプレーすることを知っていることは、イコールではないのです。http://t.co/K2NjtkpVje
— 知のサッカー bot (@thinksoccer) 2014, 3月 31
本書においてもこのような記述がある。
こういったボールを扱う技術も重要ですが、サッカーの基本的な動き方がわからなければ技術を発揮することすらできません。つまり、守備の仕方であったり戦術的な動きというのは技術に先立つのです。(位置No.139/2032から引用)
しかし、言うは易し行うは難しである。
一般的に、戦術的な動きをトレーニングに落としこむ際には2つの問題に直面する。
1つ目は、教える側が戦術的な動きについて理解していなければならないこと。
2つ目は、その戦術的な動きを効果的に学ばせるトレーニングメニューを考案しなければならないこと、である。
そのような悩みを抱えた方はまずは本書から始めてみてはいかがだろうか。
1つ目の問題については第一弾のセオリー編がカバーし、2つ目の問題については第二弾である本書トレーニング編が完璧にカバーしている。以下に、本書の優れた点を紹介する。
プレーモデルの構築までをカバーできる
巷に流布しているトレーニング本でも戦術について指南しているものが多くなってきている。特に、スペースの認知や判断力の向上といったメニューを紹介している良書も増えている。
しかし、本書がそういった書籍と一線を画しているのは、4-4-2ゾーンディフェンスというプレーモデルを構築するための尖ったトレーニング本であるということだ。
なんらかのプレーモデルのための個別のメニューではなく、4-4-2ゾーンディフェンスをするチームを作り上げるためのイロハが全て盛り込まれている。もちろん、4-4-2だけで必要な動きというものはないので、読者の工夫次第で応用すれば様々なシステムに昇華させていくこともできる。
あるシステムについて徹底的に解説(第一弾)し、そのプレーモデルを実践するためのトレーニングをあますところなく紹介(第二弾)しているのは、おそらく本書が唯一の存在ではないかと思う。
簡単なメニューから徐々に難しいメニューへ
ゾーンディフェンスの基本であるディアゴナーレについても、まずは2対2から体得していき、徐々にユニットを拡大して4対2、6対3と練習していくように構成されている。この「ユニットの拡大」は本書のトレーニング構成の基本となっており、ところどころで以下のような記述がある。
ここでも4v2から6v3への発展を用いてユニット拡大馴化トレーニングを実施しましょう。4v2は主にSHとSBのための練習でしたが、今回はボランチやCBのトレーニングにもなります。複雑性と難易度が上がるので16歳以上が適齢といえるでしょう。(位置No.764/2032から引用)
また、易→難という流れと同じくしてトレーニングメニューは守→攻という流れになっている。
セオリー編にも「44ZDは個の能力が低いチームが採用すべき戦術」とある通り、ポゼッションできないチームでもしっかりと守れば勝てるようになるための第一歩としてゾーンディフェンスが位置づけられている。よって、トレーニングはまずは守備のオーガナイズが目的とされている。ただ、もちろん守っているだけでは勝てないので、本書の後半では攻撃についてのトレーニングも徐々に登場する。カウンター、サイドから攻める、真ん中を使うといったように少しずつ内容が高度になっていく。
攻撃のトレーニングの順番については以下の記述が参考になる。
硬い守備組織と鋭く危険な香りがするカウンターアタックが形になってくれば、かなり結果を出せるようになっていると思います。その時点でこんな欲求が選手からもれてくるでしょう。
「俺達は強くなってきているんだからもう少しボールを保持する戦い方をしたい」
これはもっともです、強いチームがボールをより長い時間扱うべきですし、実際そうなります。
(中略)
ショートパスを繋ぐスタイルを目指すと言ったときに、中央を使うイメージしか持っていないと危険です。うまくいかないと大量失点に結びつくからです。はじめはサイド攻撃を中心に組み立てていき、徐々に中央を使えるようにするほうが現実的です。(位置No.1379/2032から引用)
分かりやすい図解
全てのトレーニングについて図入りで詳しく解説されていて非常に分かりやすい。トレーニングのオーガナイズ(ルール)、オーダー(進め方)、ポイントが詳しく書かれているのでトレーニングの進め方がよくイメージできる。
また、下図のようにトレーニングの流れを図を用いて解説入りで示してくれている、ここまでサービスしてくれれば読者に混乱は起こらない。下図は基本的なディアゴナーレの動きのトレーニング図解。
(位置No.725/2032から引用)
しっかりと学べばトレーニングメニューの構築も自分のものに
先にも述べた本書のトレーニング構成の基本となっているユニットの拡大や馴化という考え方は、自らトレーニングを考えるときにも非常に参考になる。身に付けさせたい基本的な動きを最小ユニットでトレーニングし、徐々に想定される周囲のポジションを加え、試合の状況に近づけてトレーニングさせていく構成は他のトレーニングでも応用できる。
本書に従ってトレーニングを構成すれば、やがて別のプレーモデルを構築しようとしたときにも理に適ったトレーニングが考案できるようになるだろう。まさにトレーニングの教科書と呼ぶにふさわしい内容である。
tags 4-4-2, ゾーンディフェンス, ディアゴナーレ, トレーニングメニュー
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